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隷吏たちのるつぼ
第2章  第一章 醒めゆく悪夢



「じゃ、もうすぐ時間なので、私、外します。よろしくお願いします」

 智咲が席を立つと、隣に座っていたみどりは黒目だけをこちらへ向けた。表情が薄い同僚だが、目つきには強い妬みが感じられる。

(そんな目されたって知らない。私が決めたんじゃないもの)

 智咲は中年のパート職員を無視して、会議室へと向かった。

 インフォメーションブースにともに座る大澤みどりは、往時はそれなりに華やいでいたのだろうなと想像させる、悪くない顔立ちをしていた。しかし老年の母親の世話と、シングルマザーとして子供を育てている生活疲れが、彼女の趣きをくたびれさせていた。

 正規職員という身分、若さ、いったい何に妬みを持たれているのかわからない。業務内容を甚だ事務的に説明し、こちらから質問しない限り話しかけてくることはなく、初日から全く打ち解けようとしないみどりの存在は、智咲に配属への不満を抱かせた原因の一つでもあった。

(いいじゃん。どうせ人なんか来ないんだから、一人でも)

 ブースを離れるに従って、智咲の足取りは軽くなっていく。

 一ヶ月、ただ座っているだけ。施設を利用する人々は、トイレの場所すら聞いてくれない。そんな日々を過ごしていた智咲に、分庁にいる課長が電話をかけてきた。

 廃校の再利用について、課長がファシリテーターを務めるワーキンググループが作られるから、智咲にも参加してほしい。そう告げられた。
 飲みに行った時に太一が話していたことを思い出しつつ、県主導の事業に新人職員の自分が役に立つのか、と不安を口にすると、この事業は地域の振興に寄与しなければならないから、観光学を修めてきた智咲はうってつけだということ、それに、若さと、県外出身者として先入観に捕らわれない自由な発想で、議論の活性化が期待できること、そんな抜擢理由が述べられた。

 悠香梨がその場しのぎに言ったのであろう慰めが現実となり、入庁以来沈んでいた智咲の心は浮かれた。

 大学での専修と、自由な発想とやらに過剰な期待を抱かれては困る。ひょっとしたら社会人一年目の自分の意見など通らないかもしれない。

 それでも一日中何も喋らないこともある今の状況よりはよほどマシだった。
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