この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
隷吏たちのるつぼ
第2章 第一章 醒めゆく悪夢

鼻歌でも出そうなほど表情を緩めていた智咲は、会議室前で課長と出遇し、慌てて顔を引き締めた。
「よう、早いね」
「いえ、何か準備があるのかなと思いまして」
本当はみどりと一緒にいると辛気臭くなるので、一刻も早く立ち去りたかっただけだが、芳賀は感心、感心と頷き、会議室の設営を手伝うように頼んだ。
資料を並べると参加人数がわかる。六人。
「おや、可愛らしいねぇ」
プロジェクターを調整していると、そんな声が聞こえた。早速、参加者の一人がやってきたのだ。
ダサいと評している、グリーンのオーバーブラウスに、膝丈の黒スカートの制服だったが、智咲が纏うとキュートながら女らしい曲線を絶妙に洗練させて見せる。地域の民生委員を長年務め、今は隠居同然に細々と農業を営んでいる老人は、制服姿の可愛らしい女の子もメンバーであることを知ると、まるで孫を見るような朗らかな笑顔で名刺を差し出した。
これまでだったら、可愛いねなどと子供扱いされればムッとしていたかもしれない。現金なものだな、と自分に向かって苦笑しつつ、人生初の名刺交換も、感慨深く行うことができた。
更に二人が到着し、一通りの名刺交換と自己紹介を終えて着座する。空席が一つ残されていた。
「ええと、篭山開発さんからの参加者の方は、今日は本業のほうがお忙しいらしく、この会は欠席です。このあと懇親を兼ねたお席を用意しておりますが、そちらには何とか間に合うそうで」
懇親会のことを聞いていなかった智咲は驚いたが、すぐに会議が始まったから、芳賀へ何も言うことはできなかった。そして事業の概要と、このワーキンググループの主旨が説明され、初めてのことばかりで資料へ書き込みをしていくうちに、懇親会のことは頭の隅へと追いやられた。
智咲にとっては、密度の濃い内容だった。
県が音頭を取る事業ではあるが、実際に施設を抱えることになるこの地域のことは市として無視はできない。行政、民間が一体となって、長期的に成り立つ事業にしなければならないし、かつ、広く残されている自然を破壊してしまうようなことも、あってはならない。県の補正予算は承認される見込みであり、まもなく本格的に議論を交わしていくことになるが、その前に、地元の総意をまとめておきたい。
「よう、早いね」
「いえ、何か準備があるのかなと思いまして」
本当はみどりと一緒にいると辛気臭くなるので、一刻も早く立ち去りたかっただけだが、芳賀は感心、感心と頷き、会議室の設営を手伝うように頼んだ。
資料を並べると参加人数がわかる。六人。
「おや、可愛らしいねぇ」
プロジェクターを調整していると、そんな声が聞こえた。早速、参加者の一人がやってきたのだ。
ダサいと評している、グリーンのオーバーブラウスに、膝丈の黒スカートの制服だったが、智咲が纏うとキュートながら女らしい曲線を絶妙に洗練させて見せる。地域の民生委員を長年務め、今は隠居同然に細々と農業を営んでいる老人は、制服姿の可愛らしい女の子もメンバーであることを知ると、まるで孫を見るような朗らかな笑顔で名刺を差し出した。
これまでだったら、可愛いねなどと子供扱いされればムッとしていたかもしれない。現金なものだな、と自分に向かって苦笑しつつ、人生初の名刺交換も、感慨深く行うことができた。
更に二人が到着し、一通りの名刺交換と自己紹介を終えて着座する。空席が一つ残されていた。
「ええと、篭山開発さんからの参加者の方は、今日は本業のほうがお忙しいらしく、この会は欠席です。このあと懇親を兼ねたお席を用意しておりますが、そちらには何とか間に合うそうで」
懇親会のことを聞いていなかった智咲は驚いたが、すぐに会議が始まったから、芳賀へ何も言うことはできなかった。そして事業の概要と、このワーキンググループの主旨が説明され、初めてのことばかりで資料へ書き込みをしていくうちに、懇親会のことは頭の隅へと追いやられた。
智咲にとっては、密度の濃い内容だった。
県が音頭を取る事業ではあるが、実際に施設を抱えることになるこの地域のことは市として無視はできない。行政、民間が一体となって、長期的に成り立つ事業にしなければならないし、かつ、広く残されている自然を破壊してしまうようなことも、あってはならない。県の補正予算は承認される見込みであり、まもなく本格的に議論を交わしていくことになるが、その前に、地元の総意をまとめておきたい。

