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隷吏たちのるつぼ
第2章 第一章 醒めゆく悪夢

智咲は困った目を周囲に向けたが、芳賀たちはぎこちない笑みを浮かべるだけだった。目線が老人へと集められていく。
「こら、征四郎。困っとるじゃないか」
老人が空気を察して窘め、ようやく征四郎は引いた。
それからも征四郎は大声で話し、遠慮なく笑い声を響かせた。貸切ではないが、客は自分たちだけのようなので、他へ迷惑になるようなことはない。
(なんか、やだなあこの人)
だが智咲は、今日の会議を欠席した篭山開発の代表者の下品な振る舞いに辟易していた。
自分を除けば、メンバーの中で一番若年だろうに、老人も含め全員に対してタメ口だ。いっぽう老人以外の三人の中年は、征四郎へ敬語で話している。しかもどんな話題でも、この男は端々に篭山開発の権威を臭わせて、自分へ得意げな流眄を向けてくるのだ。
田舎者──N市民を見下すわけではないが、征四郎に対してだけは、そんな嘲りを禁じ得なかった。
二時間くらいかと思っていたが、老人がご機嫌なせいで、宴は長く続いた。その老人の呂律もずいぶんとあやしくなってくると、智咲は席を立った芳賀を追いかけるように廊下へ出た。
「課長、もうそろそろ締めませんか?」
トイレから出たところでつかまえる。
「えっ……! ああ、うん」
急に声をかけられたから驚いた、というには、大仰すぎる声を出した芳賀は、取り繕うように咳払いをし、「まぁ、そろそろかもしれないね」
そんな曖昧な返事をした。
「私、集金します。一人おいくらですか?」
「いや、おっしゃってたじゃないか。今日は篭山さんが出してくださるから」
「えっ」
信じられない発言だった。くどいくらいに回ってくる注意喚起に真っ向から反する。
「いけませんよ、そんな」
「いや、いいんだよ。特定の入札を前にしての飲み会じゃないだろう? ……これまでもあったんだ、こういうのは。それに篭山さんの好意を無碍にしたら、ワーキンググループのこれからの運営にも支障をきたすかもしれないしね」
いかなる例外もないはずだ。いや、それ以上に、あんな男に奢らせて、虚栄心を満足させてやる気になれない。
「こら、征四郎。困っとるじゃないか」
老人が空気を察して窘め、ようやく征四郎は引いた。
それからも征四郎は大声で話し、遠慮なく笑い声を響かせた。貸切ではないが、客は自分たちだけのようなので、他へ迷惑になるようなことはない。
(なんか、やだなあこの人)
だが智咲は、今日の会議を欠席した篭山開発の代表者の下品な振る舞いに辟易していた。
自分を除けば、メンバーの中で一番若年だろうに、老人も含め全員に対してタメ口だ。いっぽう老人以外の三人の中年は、征四郎へ敬語で話している。しかもどんな話題でも、この男は端々に篭山開発の権威を臭わせて、自分へ得意げな流眄を向けてくるのだ。
田舎者──N市民を見下すわけではないが、征四郎に対してだけは、そんな嘲りを禁じ得なかった。
二時間くらいかと思っていたが、老人がご機嫌なせいで、宴は長く続いた。その老人の呂律もずいぶんとあやしくなってくると、智咲は席を立った芳賀を追いかけるように廊下へ出た。
「課長、もうそろそろ締めませんか?」
トイレから出たところでつかまえる。
「えっ……! ああ、うん」
急に声をかけられたから驚いた、というには、大仰すぎる声を出した芳賀は、取り繕うように咳払いをし、「まぁ、そろそろかもしれないね」
そんな曖昧な返事をした。
「私、集金します。一人おいくらですか?」
「いや、おっしゃってたじゃないか。今日は篭山さんが出してくださるから」
「えっ」
信じられない発言だった。くどいくらいに回ってくる注意喚起に真っ向から反する。
「いけませんよ、そんな」
「いや、いいんだよ。特定の入札を前にしての飲み会じゃないだろう? ……これまでもあったんだ、こういうのは。それに篭山さんの好意を無碍にしたら、ワーキンググループのこれからの運営にも支障をきたすかもしれないしね」
いかなる例外もないはずだ。いや、それ以上に、あんな男に奢らせて、虚栄心を満足させてやる気になれない。

