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隷吏たちのるつぼ
第2章 第一章 醒めゆく悪夢

「いやです、私。あの人、なんだか苦手です」
話が通じるだろう上司へ、征四郎の印象を正直に伝えた。
「まぁ、ああいう人だから、本山さんの気持ちはわからないでもないよ。でも、篭山開発の御子息だからね。あまり揉めたくない、ってのはわかってくれよ」
「でも……」
「何かあったら私が何とかする」
芳賀が背を伸ばして言ったから、智咲は引き下がらざるを得なかった。
座敷に戻ると、
「あー、じっちゃんもうベロベロだ。帰ったほうがいいんじゃねぇのぉ?」
くしくも征四郎が言い出した。対座にいたメンバーが、自分たちの帰り道なので二人で抱えて連れて帰ると言う。
「あ、そ。よろしく」
征四郎が二人に向かって言うと、彼らは決意めいて小さく頷いたが、智咲からは見えていなかった。
「じゃ、お開きだな。──智咲ちゃん」
前後不覚の老人が両脇を抱えられ始めると、征四郎が声をかけてきた。ちゃん付けで呼ばれる悪寒を我慢して、恬淡と返事をする。
「最後、一杯だけ、乾杯しようよ。ね? 今日一回も乾杯してないじゃん」
しつこい。智咲は息を静かに吐き、
「ですから、私、車なんで」
す、を付け加えるのも忘れてしまった。
「だと思ってさ、ウーロン茶、頼んどいたから。ね? 一杯だけ」
征四郎の前にビールコップに注がれたウーロン茶があった。芳賀を見ると、頼む、という顔をしている。
「わかりました」
渋々智咲が斜座に膝をつき、コップを差し上げると、
「一気ね、一気」
征四郎が猪口を鳴らした。これさえ飲めば……智咲は仕方なく、喉を何度も開いてウーロン茶を流し込んでいった。あまり冷えていなくて妙に苦い。
ふー、と息をついてコップを置き、
「……おつかれさまでした。本日はありがとうございました」
と言うと、老人のモゴモゴとした独り言が聞こえてきた。
階段から落ちたら一大事だし、靴を履かせたり、タクシーへ乗せたりするのも大変だろう。手伝おうと思い、立ち上がった。
話が通じるだろう上司へ、征四郎の印象を正直に伝えた。
「まぁ、ああいう人だから、本山さんの気持ちはわからないでもないよ。でも、篭山開発の御子息だからね。あまり揉めたくない、ってのはわかってくれよ」
「でも……」
「何かあったら私が何とかする」
芳賀が背を伸ばして言ったから、智咲は引き下がらざるを得なかった。
座敷に戻ると、
「あー、じっちゃんもうベロベロだ。帰ったほうがいいんじゃねぇのぉ?」
くしくも征四郎が言い出した。対座にいたメンバーが、自分たちの帰り道なので二人で抱えて連れて帰ると言う。
「あ、そ。よろしく」
征四郎が二人に向かって言うと、彼らは決意めいて小さく頷いたが、智咲からは見えていなかった。
「じゃ、お開きだな。──智咲ちゃん」
前後不覚の老人が両脇を抱えられ始めると、征四郎が声をかけてきた。ちゃん付けで呼ばれる悪寒を我慢して、恬淡と返事をする。
「最後、一杯だけ、乾杯しようよ。ね? 今日一回も乾杯してないじゃん」
しつこい。智咲は息を静かに吐き、
「ですから、私、車なんで」
す、を付け加えるのも忘れてしまった。
「だと思ってさ、ウーロン茶、頼んどいたから。ね? 一杯だけ」
征四郎の前にビールコップに注がれたウーロン茶があった。芳賀を見ると、頼む、という顔をしている。
「わかりました」
渋々智咲が斜座に膝をつき、コップを差し上げると、
「一気ね、一気」
征四郎が猪口を鳴らした。これさえ飲めば……智咲は仕方なく、喉を何度も開いてウーロン茶を流し込んでいった。あまり冷えていなくて妙に苦い。
ふー、と息をついてコップを置き、
「……おつかれさまでした。本日はありがとうございました」
と言うと、老人のモゴモゴとした独り言が聞こえてきた。
階段から落ちたら一大事だし、靴を履かせたり、タクシーへ乗せたりするのも大変だろう。手伝おうと思い、立ち上がった。

