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隷吏たちのるつぼ
第3章  第二章 遅れた服罪
「いやっ、やあっ!」

 膝頭が掴まれ、開脚させようとしてきたから、さすがに我慢していた悲鳴が漏れた。

「ほら、足開けよ。もっとイジくってやるからさっ……」
「いやあっ、助けて! 誰かっ!!」

 いよいよ危機が迫ってくると、智咲は今日一番の大声を上げ、思い切り脚をバタつかせた。

 足元から野獣が襲い来る。……そう、コイツはケダモノだ。

「いてえっ!」

 はしたないのも気にせず、踵を前に突き出したら、征四郎の肩にヒットした。力を入れてもう一度蹴り飛ばすと、顎にも。

 征四郎がグラついた。

「誰かっー!!」

 怯んでいる隙に救けの声を張った。しかし部屋に響く自分の声が大きければ大きいほど、直後の閑寂は深かった。

(うう……、な、なんで……)

 ここにやってきた時、女将が出迎えてくれたのに。聞こえないのだろうか。そんなはずはない。きっと、この男が何か因果を含めているに違いない。

 智咲は身を半回転させると、膝を踏んで体を起こした。仰向けよりも身を起こした方が、もっと大きな声が出ると思った。ここに来るまでに民家があった。旅館の人間が無関心を決め込むのだとしても、通りがかりの誰かの耳に届くかもしれない。

 乱暴されているところを知られるのは、被害者ながらに恥ずかしい。だがもう、そんなことを言っている場合ではなかった。

「誰かっ、助けてくださいっ!!」

 あらん限りの声を出した。

「レ、レイプ……」
 その言葉を口にして、改めて戦慄を覚えながら、「お、おかされるっ!」

 そう叫ぶや否や、首根を引っ張られて後倒した。やはり受身は全く取れず、布団の上に投げられた時よりも背中に強い衝撃があった。暴力の主が足首を掴み、高く引き上げようとしてくる。

「いやあっ!! 助けてっ、おかされるっ……、かごや……」

 パニックになって、その名を大声で知らしめてやろうとした時、頬に灼けるような痛みが走った。

「……!」

 殴られたことなどない智咲は、一打で静かになった。

 痛みより、顔に鳴った音の方が智咲を凝らせた。自分を圧倒する暴力を備えていることを見せつけられた唇がわなわなと震える。
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