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隷吏たちのるつぼ
第3章  第二章 遅れた服罪
「でも?」
「誰かに見つかるかと思ってドキドキした。ユカリンは平気なの?」
「そーだねー、カーセックスなんてして、信用失墜行為に問われたらどーしよー」

 悠香梨はそう茶化したが、正直、いつもよりかなり興奮した。ベッドの上でも秀之が下に、悠香梨が上になることが多いが、狭いシートに大人しく座らせて焦らしまくったら、子供のように悶える甘え声がたまらなかった。 

「ちがうよ」
「んー……?」
「ドキドキしたのは、ユカリンが……、誰かに見られるなんて絶対イヤだったから」

 木立の向こうをヘッドライトと車音が通り過ぎると、秀之がしがみつくように抱き寄せてきたのを思い出した。単にカーセックスが見つかるのを恐れたのではなかったらしい。大事な悠香梨を、衣服がはだけた肌の一片たりとも、自分以外の男の目から隠したかったのだ。

(海行くのだってイヤがるからなぁ。新婚旅行、ビーチリゾート行きたいのに)

 束縛には思わない。秀之は自分にベタボレだ。
 愛されてしょーがねーな、と心の中で自嘲して、タバコを指に挟んだまま運転席へ身を乗り出し、えらいえらいと言って優しく秀之の頬を吸った。

 ……唇を離すと、ちょっと甘やかし過ぎている自分が恥ずかしくなり、

「てかダンナ、この先もずっとユカリンって呼ぶ気っすか?」

 とごまかした。

 学生時代からの愛称だ。お互いN市に隣接する街の出身で、初めて出会ったのは中学。同じ陸上部の後輩であった秀之も、皆が呼ぶその呼称に『先輩』を付けて呼んでいた。

 大人びた風貌をしていた悠香梨は絶えずモテてきた。中学一年で彼氏ができて以降、悠香梨のほうから男の子を好きになる暇がないほど、誰かと別れると、必ず誰かが告白してきた。断る理由がないからOKする、そんな心境で付き合っていたからあまり長続きはしなかったが、気持ちの切り替えが早い悠香梨は、別れた後も元彼たちと普通に友達でいられた。

 小学生の時に父親を病気で亡くし、高校三年時には母も体を壊して入院した。まだ中学生の弟もいたから、悠香梨は大学受験を諦めた。しかし周囲が将来の希望を叶えるために散らばって行こうとするのを、家庭の事情だから仕方がない、と口ではあっけらかんと言ったが、内心では羨ましく思っていた。
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