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隷吏たちのるつぼ
第4章  第三章 詭謀の酬い



 悠香梨は車を停めても助手席側を見ようとしなかった。コンコンと窓が叩かれる。ロックは外してある。

 また、叩く音が聞こえた。大きく息をついて助手席のパワーウインドウを開く。

「ドア。開けてもらえる? 片手じゃできなくてね」

 悠香梨は、はあっ、ともう一度、大袈裟に息をついて運転席を降り、反対側へ回ってドアを開けた。

「どうも」
「早く乗って」
「あれえ? やっぱり市の職員さんは、役場を出ると市民にタメ口なのかよ」
「早く、乗ってください」

 目を合わせず、斜め上を見やって言うと、耳に残るクククとした含み笑いが聞こえてきた。征四郎が乗り込むと、ローンで買った大事な新車なのに、乱暴にドアを閉めた。

「そんなにビビんなくても、誰も見てねえよ」
「別にビビってなんかいません」

 駐車場から幹線道路へ出る。

 運転していると、左側からジットリとした視線を感じた。オープンVネックのドルマンニットは失敗だった。体のラインを出さず、相談カウンターで味わされた、あの視姦の眼差しを遮るつもりだったのに、これまであまり意識してこなかった襟元は意外と広く開いていて、下に着ているタンクトップも少し覗いていた。予想していた以上のネチっこい視線が、襟周りにまとわりついてくる。

 隣を見なくても、やがて視姦の向き先が体を下り、アクセルを踏む脚にまで達しているのがわかった。トップスと違い、オフホワイトのクロップドスキニーは仕方がなかった。こういったボトムスしか持っていない。脚線美を存分に出すスタイルが、秀之の好みなのだ。

(秀之……)

 ──電話に出ると、学生時代のような、頼りない声が聞こえてきた。

「ユ、ユカリン、どうしよう」

 自営の仕事をするようになって、少しは男らしくなってきていたはずの秀之の声は、狼狽して震えていた。

 仕事中に人をはねてしまった。
 まず、その一言に仰天した。
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