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隷吏たちのるつぼ
第4章  第三章 詭謀の酬い
 実際は、取引先に納品を済ませた後、駐車場から出そうとバックしたクリーピング中に軽く接触した、という程度だった。何の衝撃もなく、コツンと車体に当たった音だけがして、慌ててブレーキを踏んで外に出たら、手首をさすって立つ男がいた。

 とにかく頭を下げ、ほかにどこか痛いところはないか、救急車を呼んだほうがいいかと問うたが、

「いいっていいって、こんなの、事故でもなんでもねえよ。俺も急いでるから」

 と笑い、どうぞ仕事に戻ってくれ、と男は言った。

 お詫びに伺うから、せめて連絡先を教えて欲しいと頼むと、それも固辞しようとしてきたから、そういうわけにはいかないと、何とか頼み込んで教えてもらった。

「で、でもその、ぶ、ぶつかったのが……」

 篭山征四郎だった。

 市街にある老舗で菓子折りを買い、一時間ほど後に、教わった番号へ電話をした。すると、家まで来られると家族が心配するから近くのファミリーレストランで、と場所を指定された。

 まだ気が焦っていた秀之は、必ず先に行っていなければ、と時間よりもかなり早くに待ち合わせ場所を訪れた。席で待つ間、納品から帰らない息子を心配をさせないよう、自宅へ連絡を入れた。

 だが、電話が繋がるや、

「あ、あんたっ……、篭山さんに何したのっ!?」

 と、怒りとも焦りともつかない母親の声が聞こえてきた。

「え?」
「さっきから注文取消の電話が三つもかかってるの。これまでずっと取引していた工務店まで……『篭山さんに目つけられたら困るんで』って言うのよっ! 母さん、何のことかわからないから聞いたらね、『息子さんが何かしでかしたそうですよ』って。ねえ、秀之っ、あんた、いったい何したのっ?」

 秀之は目の前が真っ暗になった。三件も注文取り消しにあったら、間違いなく不当りが出る。秀之は母親の電話を早々に切り、征四郎の番号へかけた。

 しかし何度もかけても、出てもらえなかった。
 そして、時間に遅れてレストランに現れた征四郎は、包帯で片腕を吊っていたのだった。
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