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隷吏たちのるつぼ
第4章  第三章 詭謀の酬い
 そう言われて、思わず驚きの顔を向けてしまった。不細工な顔が、より一層気色悪く緩んでいる。秀之が彼氏であることは、この男は知らないはずだ。

「な、なんで……」
「いや、偶然ね、知り合いから聞いたんだよ。可哀想だよなぁ、こんな美人の嫁さん貰うとこだったのに、これじゃ、ご破算になっちまうんじゃない?」
「っ……! あんたが脅迫してるくせにっ」
「おいおい、人聞きの悪いこと言うなよお。こっちは被害者なんだぜ? それに、納税者に対する口のききかたがなってないなぁ」

 激憤に任せて引っぱたいてやりたかったが、庁舎内で騒ぎを起こすわけにはいかない。
 一度深呼吸をした。……考えてみれば、終業後会う時か、今かの違いだけだ。言ってやることに違いはない。

「話は聞いています。治療費とか時計代とか、お仕事、お休み中の補償も、私も負担して必ずお支払いします。これでいいですよね?」
「おー、普段、貧乏人相手にしてる職員さんはキップがいいね」
 周囲には職員がたくさん歩いていて、征四郎と立ち話している自分をチラチラ見てきている。「それとも、愛する彼氏のためなら、身銭を切るのも平気ってか? どうすんの、ナイショでキャバクラとか風俗で働くつもり? 悠香梨ちゃんならすぐにナンバーワンだね。働くようになったら教えてよ、俺行くから」

 カンに障ることをわざと並べてきているのはわかっている。わかってはいても、内容があまりにも人を馬鹿にしたものだったから、

「そうですね」
 思わず意気高に腕組みをして、「愛する人のためですから。そこまでしてでも、圧力をやめさせたいんです」

 決して卑屈な態度にはならなかった。こんな男に、何一つ媚びる気はない。

「妬けるうっ」
 口笛を鳴らされ、「じゃさ、この件、二人でゆっくり話をつけようよ。海辺のレストランでさ」
「はぁっ!?」

 バカじゃないの、と付け加える前に、征四郎はクックッと笑い、悪辣な光を目に宿らせた。

「愛する彼氏のためなら何でもするんだろ? 俺が会社にひとこと言ったら、取引制限は解除されるよ。彼氏、ほんと頼りなさそうだよなぁ。悠香梨ちゃんが交渉に当たったほうが、よっぽど話が早いんじゃないの?」
「……」

 確かに、ただでさえ気が優しい上に、ぶつけてしまったという負い目を抱いている秀之では、不安しかない。

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