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隷吏たちのるつぼ
第4章  第三章 詭謀の酬い
 乱暴といえば、まず服を脱がせにかかったり、体をまさぐってくるとでも思っていたのだろう。予想外の行動に防御が遅れたデニム地へ、征四郎はなんなく唇を押し当てることができた。

「うあっ、何すん……、死ねっ! 離してっ!! 誰かっ!」

 悠香梨の叫び声に、誰の何の反応もない。
 篭山が筆頭出資者であるホテルの、篭山に忠義を尽くすチーフマネージャー。彼は、スイートルームフロアには近づくな、と従業員に強く指示しているはずだ。救けを求める声を心地よく聞きながら、征四郎はこれでもかというほどの唾液を布地へ染み込ませていった。

「い、いやあっ、キ、キモっ……やだっ、離せって」
 悠香梨は腹筋を使って身を起こし、頭へ掌底を撃ちつけ、爪を立ててきたが、「あっ、あんた……、手……!!」

 焦れったくなった征四郎が、自由な右腕だけではなく、吊り布を外した左腕でもガッチリと太ももを抱え込んでいるのを見て愕然となった。

「ふぉむっ……、どうやら腕、折れてなかったよお……。治療費は要らないから」
「くっ……、くそっ、やめろっ……、うわ、やだっ!」

 涎がデニムを越えて下着まで達したようだ。口を押し付けたまま話されて、熱い湿り気も感じるに違いない。

(そうだ)

 ……口に入れたら危ないか。いや、罠に陥れようとしたのだから、とことん制裁を受けてもらわねばなるまい。

 征四郎はポケットから軟膏を取り出すと、縫い目の上に捻り出した。幸運にも──荒れ狂う悠香梨にとっては不運にも──目に入らなかったようだ。

 口内に唾をたっぷり溜めてからもう一度ふるいつく。布地へ押し込むように舌で軟膏を伸ばしていった。ピリッと走る苦味を飲み込まないよう注意して、溶けた薬剤を中へ浸透させていく。





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