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鬼ヶ瀬塚村
第22章 真理子
僕が鬼の村で鬼になった事なんて考えもし無いだろう。
寂しくは無かった。

父は若い女に夢中になり、母はノイローゼとなった。

あんな家に僕の居場所は無かったのだから。

『さぁ~ッ!入っちゃうぞぉ~ッ!!』

真理子さんがザブンッと飛沫を上げながら湯船に飛び込んで来た。

僕の顔に飛沫がかかる。

真理子さんはしばらくダルマみたいに湯船の中で丸くなって沈んでいた。

ユラユラと長く黒い髪がまるで深海を漂うワカメの様だ。

『…ッ!!はぁッ!あ~…気持ちいいなぁッ!!』

真理子さんは勢いよく顔を湯船から出した。
そして前髪をかき分け、睫毛をつまみ始めた。

『お湯でスルンと取れちゃうマスカラだからねぇ』

彼女はそう言って湯船で化粧を落とし、残骸を手ですくうと湯船の外へと流した。

『やっぱうちの温泉が一番ねぇ』

真理子さんは目蓋を閉じて湯加減を楽しんでいた。

『ねぇ、真理子さん』

『何よ?私の裸見て欲情したの?』

『違うよ』

『あら、残念』

真理子さんはニヤニヤしながら僕の隣まで移動し、膝を立てた。

白い島が2つ浮かんでいるようだった。

『真理子さんは、最初から僕の事知ってたんだね』

僕は静かに呟いた。
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