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鬼ヶ瀬塚村
第24章 餓鬼
『一郎さん、あなたは狩りたくないのではなく…狩りたいのですね?』

僕は座りこむ彼を見下ろした。その少し猫背の背中が更に猫背へと形を変える。一郎さんは大きく頭を下げ、そのまま動かなかった。

『僕が選ばれだら…お義兄ざんを仕留めるんば一番先じゃば…選ばれながっだら…他のマタギの腕を信じるじがねぇっぺな…』

一郎さんは"ハハッ"と嘲笑気味に笑った。自分を笑ったのだろう。

『くじ運…ないがらなぁ…僕…』

かける言葉が見つからなかった。

『もし…もしもですよ?宗二さんが死んでしまった場合は………弘子さんが猪神を宿らせて食べるんですか?』

『いんや…それば食べられねぇっぺ…弘子姉ざんが直接お義兄ざんがら命ど魂を貰い、ぞごへ儀式で猪神様を宿す…ぞじで清められ、食べられるんだ。獲物どじで死んだ場合ば墓に埋められるが、許可があれば祭りを上げで魂を慰めてやる…それだけじゃ…』

ここで生き残らなくては宗二さんは愛する弘子さんに食べて貰えないという事か…一郎さんも宗二さんの想いを知っているのか"必ず選ばれてやるっぺよ"と呟いた。

…ん?

『あの、一郎さん…』

『なんだっぺよ?ん?』

『その…足の早いノブは…獲物として命を落としたんですよね?』

『んだ』

『墓に埋葬されたんですよね?』
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