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鬼ヶ瀬塚村
第25章 奴奴
真理子さんを見る。彼女は微笑んでいた。

『目の神って書いて"めかみ"…見張り番の事よ』

僕の意図を読み取ってか真理子さんは教えてくれた。

『あの…車と………死体は…』

奴奴が言う。
真理子さんがそれに答える。

『そこに置いておいて良いですよ。少し傷むだろうけど問題無いですよ』

問題ない。
この時程この日本語の意味に疑問を感じた事は無かった。

問題ない。

そう。村人にとっては死体が多少腐敗しようがハエがたかろうが…問題無いのだ。

真理子さんに導かれ、奴奴はビクビクしながら荒岩家の玄関に上がった。

上がった瞬間、彼はドタッと硬い音を立てながら膝から崩れ落ちた。

『大丈夫ですか?』

真理子さんが彼を見下ろしている。
その目は少し冷たげで怖かった。

『…すみません………着いた途端に…力が抜けて…』

『そういうもんですよ。さぁ、入ってください』

そういうもん…どういうもんなんだろう?
僕には理解出来き無い。

奴奴は立ち上がると、まるで小動物のように身体をすくめながら真理子さんに続いた。

僕もそれに続いた。

廊下がキュッキュッキュッと鳴く。
首を摘ままれた数匹のネズミのようなその音は長い長い廊下に響いていた。
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