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鬼ヶ瀬塚村
第25章 奴奴

不意に背後でふすまが開く音がした。
振り返ると居間から紗江さんが顔を覗かせている。
紗江さんは軽く僕を睨んでから顔を引っ込めた。
『足音でわかるのよ』
真理子さんが言った。
僕はようやくこの鳴る廊下の意味を理解した。
木造建築特有の歪みで鳴っている訳じゃない。
わざと鳴るように造られているのだ。
足音が鳴る様に。
奴奴の足音は小さく弱々しい。
まるで僕のようだ。
小さく軋むのだ。
荒岩家の人間は一族か奴奴か聞き分けれるのだろう。
奴奴の足音がすれば仕事の合図なのだ。
この乾いた音を耳にし、荒岩家は奴奴の到着を知る。そして動きだすのだ。
まだ僕が足を踏み入れていない渡り廊下へやって来た。
軽くアーチを描く渡り廊下は離れへと続いている様だった。
廊下の正面にガラス戸があり、真理子さんがそれを開ける。
『どうぞ』
奴奴は言われて中に入る。
僕も続いた。
『こちらにどうぞ』
奴奴を案内した場所は薄暗く、日の光がろくに入らない座敷だった。
竹やぶが障子に影を落としている。
すぐ外は庭か何かなのだろう。
真理子さんは座敷の明かりをつけると、松の木を使った長いちゃぶ台の前に座布団を敷いた。
『では座って下さい』

