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鬼ヶ瀬塚村
第25章 奴奴
奴奴はビクビクとしながらゆっくりとまるで座布団の感触を確かめるように座った。

『ノブはこっち』

真理子さんが奴奴の正面に座り、隣に座布団を敷いた。
僕も奴奴みたいにゆっくりと座った。

座敷奥に続く同じような広さの暗い座敷が無性に怖かった。
生活感のある桐箪笥と鏡台が何故か生々しく見えて怖かった。
鏡台に誰か映るんじゃないかとあらぬ想像をした。

『では、始めさせて頂きます』

真理子さんがちゃぶ台下から箱を出した。表面にベッコウで模様が描かれている。

そして中から札のような縦長の紙を二枚取り出した。
どちらも和紙で出来ていた。

『こちらにあなたのお名前を。こちらにはお亡くなりになった方のお名前を…名前がわからなければ…だぬきと書いてください』

殺しておいてお亡くなりになった方とは随分な言い方だ。

奴奴は手渡された筆で名前を書いた。ありがちでパッとしない名前だった。
もう一枚の方には女性らしき名前を書いた。
最後に香のつく綺麗な名前だった。

奴奴はそれを書くと俯き、目を伏せた。

『ありがとうございます。では預からせていただきます』

真理子さんがその二枚を取り、確認するように見下ろす。

『野田さん、こちらのだぬきとのご関係、そして経緯を窺ってもよろしいでしょうか?』

名前を呼ばれ、奴奴が顔を上げた。
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