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鬼ヶ瀬塚村
第26章 箱
『中に入れよッ?』

優子が僕の手首を掴んで中に引き入れようとする。

『いや…いいよ、悪いけど達弘さん呼んできてもらえないかな?』

『自分で探さねが?ぞれより見でぐれよぉ、ここがオレ達鬼ヶ瀬塚村自慢の仕事場だっぺッ!はよぉ入れッ!色々見ぜでやるよ』

優子は汗だくの顔で笑顔を向ける。
炭鉱だけあって空気に粉末状の石炭が微妙に混ざっているのか、彼女の頬や丸い鼻の先は黒ずんでいた。

『熱いっぺよぉ』

優子は黒いタンクトップの裾で顔を拭った。
チラッと乳房が見えて僕は思わず目を反らした。

『ええがら来い、ほれッ!』

優子に言われて僕は渋々仕上げ室に入った。

巨大な穴ぐら…そんな感じだ。
とにかく暑く、空気が淀んでいる。気が付けば僕の手首や腕は石炭が知らぬうちに付着して黒くくすんでいた。

靴の下を流れる薄く赤い水に不快感を感じながら僕は優子に続いて釜の近くまでやって来た。

まるで地獄だ。
昔見た事がある。
鬼伝説に惹かれて土着の風俗を学んでいた時期に見た地獄絵図、まさにそこに描かれていた地獄の責め苦に似ていた。

地獄の小鬼達が熱した釜の中に不浄の人間を投げ入れて棒でかき混ぜているやつだ。
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