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鬼ヶ瀬塚村
第26章 箱
未知は不思議だ。
今未知は99%を恐怖で占め、1%の好奇心を含んでいた。

人間というのは未知を本能的に恐れる。

重々承知なのにな…

僕は優子に手を引かれて巨大な釜に近付いた。
彼女の背中には汗でミッキーマウスのシミが出来ていた。

『足元気ぃづげろば』

優子に言われ、木材で出来た階段に足を踏み込む。
表面は薄く赤色に染まっていた。
その上に泥や石炭のくすみが付着している。

釜の熱をじかに感じた。
長い棒でかき混ぜている小鬼達が僕を見下ろしている。
見上げると屈託なく笑う優子がいる。

彼らにはこの未知が常識で当たり前なのだろう。

階段を一段一段踏みしめるようにのぼる。

汗で顔を光らせた小鬼達が僕から視線を釜へと移した。
つられるようにして僕も視線を釜の中に移す。

そこには人間の手足と胴体が煮え立つ湯の中で円を描くように踊っていた。

まるでプラスチックのようにそれはツルツルだった。

乳房の下から下腹部までに大きな裂け目があり、肌色と黄色の綿のような脂肪が見えた。
生々しく下腹部には茂った陰毛が見える。

僕は激しい立ち眩みに襲われて、側の手すりにもたれかかった。

腕や脚が熱で湯立ち、まるで意志があるように動いている。
爪まで見えた。

僕はその場で吐いた。
優子や小鬼が僕を驚いた表情で見下ろしている。
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