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ヒロイン三国ファンタジー
第15章 15 英雄たちの死・2
 司馬懿仲達の父、司馬防建公は若き日の曹操の才覚を見出し、洛陽北部都尉の官職につけた。
彼は厳格で慎ましい人物であり、後漢末期の腐敗した政治の中で珍しく清らかさを貫いているともいえる人物であった。

「そなたの父上が初めて私を見出し、そして唯一、私を拒んだものだ」


 若かった曹操は衝動的で随分と思慮も浅く、才を見出す前に興味がわけば人を欲した。洛陽北部都尉に推挙される前に、司馬防と会い、勿論迫った。
ところが厳格な彼はその手を払いのけ、もっと自分の才覚と相手の才覚を見極めてからことを成せと諭す。
 女の誘惑を跳ね除けることのできる司馬防に衝撃を受け、その言葉を肝に銘じる。その後彼女は、これだという才のある、恋しい人を求めてきたのである。


「建公殿は手に入らぬ人であったな。残念ながら私に何も感じなかったのであろう」
「いいえ。魏王。父はきっと誰よりも――あなたを女人として愛されたのでありましょう。かんざしがその証にございましょう。恐らく自分の年齢と限界で身を引いていたのだと思われます」

「そうか。それでそなたを私の元へ寄こしたのであるな」
「ええ、わたしは幼き頃からあなた様に身も心もお仕えするために言いつけられてきましたので」

「仲達よ。建公殿が何も言わねば私に仕える気になったのか?」
「魏王。わたしは父の傀儡ではありません。わたしはあなたが都尉でいらっしゃる頃から慕っておりました」

「そうか」
「では、これで」

「うむ」

 曹操がかんざしを眺め、司馬防を思う姿に司馬懿は嫉妬する。また彼女の天下泰平への意志を黙って見守り支えてきた父自身の奥ゆかしさと、禁欲的な姿に男として太刀打ちできないものも感じている。
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