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ヒロイン三国ファンタジー
第16章 16 英雄たちの死・3
「軍師殿、主君がお呼びです」
「わかった」

それ以上何も言葉に出せず、諸葛亮もまた悲痛な趙雲に何も言葉をかけず玄徳の元へと向かった。


 目を閉じやつれた青白い顔を見せる玄徳に、諸葛亮はもはやここまでと痛感する。

「我が君……」

「孔明……。朕はそなたに申し訳ない気持ちでいっぱいである。どうしても聞けなかった。
魏が迫っているとしても関羽と張飛の死を無視して呉と手を結ぶことがどうしてもできなかった……。
それがこのようなことに……」

「いいえ、我が君。あなた様があなた様たらしめるのが仁であり、関羽殿と張飛殿でありましょう」

「ええ。あの二人がいなければ今の私もありません。しかし孔明、あなたを求めたときに本当は天下人であらねばならなかった。
それなのに情に溺れ、兵士をなくし……」
「もう、もう仰らないでください」


「……。劉禅は心の清らかな無欲な息子です。この戦乱の世に生まれるには時期が早すぎた。今になって孟徳殿の目指していたものがわかる。本来、天下を平定するものは血筋ではなくその才覚があるものなのかもしれない。どうか、孔明。劉禅が成人しても政を為せないようなら譲位させあなたがこの国を継いでください」
「我が君! なりませぬ。わたしは漢に、あなたに忠義を尽くします。国を安んずるのは才のみにあらず。やはり仁徳なのです」

「ふう……。あなたと初めて会って話し合った時のなんと悦ばしかったことか。あなたという清らかな水を得て私も清らかに泳いでいられた」
「それはわたしも同じこと。この乱世の中でも、おのが草庵のように汚れずにおれたのはあなた様をご主君と仰げばこそです」

「身体の契りを結ぶことなく、交われたあなたもまた特別な方でした」
「ええ。我々は魂で契っていたのですよ」

 玄徳は清らかな乙女のように澄んだ瞳を見せ、桃の花が零れ落ちるような笑顔も見せる。
「天下を安んじ、民と共に栄え、花と笑いに満ち……」
「ええ、我が君。この蜀の民は皆、あなたをお慕いし、あなたのように仁義にあつく……。わ、我が君……」

 口元に微笑みを浮かべ劉備玄徳はこの世を去った。

「我が君。魂が去ってしまった後のあなたの唇を奪うことをお許しください……」

 諸葛亮は最初で最後の口づけを交わし、一筋の涙を流した。
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