この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
ヒロイン三国ファンタジー
第18章 18 北伐
曹魏を倒し天下を安んじんとの北伐は成果がなかなか振るわず、魏延は諸葛亮に不甲斐なさを感じている。
「俺ならもっと……」
一度だけ玄徳と過ごした夜を思い出す。
――関羽と張飛は玄徳と離れた城を守り、また諸葛亮と趙雲も視察のためでかけている雨の夜だった。魏延は千載一遇の好機と、思慕する玄徳の元へ向かう。この機会を置いて思いを遂げることが出来ぬだろうと思った。
玄徳の屋敷を守る門番も魏延を見ると「どうぞ! 魏将軍」とさっと道を空ける。
魏延はいかにも主君に報告をするのだという風体で堂々と歩く。
寝所の前に立ち「主君」と声を掛けると「文長か。参れ」と玄徳の優しい声がかかる。
横たわっていた身体を寝台に起こし、ほつれた髪を整えながら玄徳は「どうしたのです?」と問いかけてくる。
魏延は玄徳を前にすると、それまで抱いていた彼女を我が物にせんとの想いに揺らぎが現れる。目の前にするとやはり並の女人ではない。神々しく慈愛に満ち清らかで侵しがたい天女のようである。
「あ、あの、丞相もおいでになりませんし、何かお困りごとなどないかと……」
「文長よ。そなたは思いやりがありますね。そのように濡れて。さあ、これで拭いてあげよう」
玄徳は枕元に置いてあった柔らかい布で魏延の濡れた頬を優しく拭く。
「ああ、わ、我が君」
身体中の血が湧き上がり、魏延は己の中心が熱くたぎるのを感じる。
このまま彼女を無理やりにでも奪ってしまおうかと思わず手を伸ばしかけたその時、玄徳の枕元にホウ統士元の名が刻まれた位牌が目に入る。
「あ、そ、それは」
「ああ。これは士元の位牌です。惜しい人を失くしてしまいました。彼の事を忘れぬようそばに置いているのです」
「そうでしたか……」
魏延はすっと冷静さを取り戻し、ホウ統の玄徳を慕っている眼差しと、策を講じている鋭い目つきを思い起こす。彼もどれだけ玄徳を欲していたか魏延にもわかっていた。
新参者である二人はある意味同じように玄徳の寵愛を得んと競っていた。こうして位牌と言えども玄徳と寝所を共にする彼の願いは通じたのであろうか。
魏延は今ここで玄徳を奪えば、己の欲望は満たされても、寵愛を得るどころか軽蔑され二度と心は満たされぬだろうと思い直す。
「俺ならもっと……」
一度だけ玄徳と過ごした夜を思い出す。
――関羽と張飛は玄徳と離れた城を守り、また諸葛亮と趙雲も視察のためでかけている雨の夜だった。魏延は千載一遇の好機と、思慕する玄徳の元へ向かう。この機会を置いて思いを遂げることが出来ぬだろうと思った。
玄徳の屋敷を守る門番も魏延を見ると「どうぞ! 魏将軍」とさっと道を空ける。
魏延はいかにも主君に報告をするのだという風体で堂々と歩く。
寝所の前に立ち「主君」と声を掛けると「文長か。参れ」と玄徳の優しい声がかかる。
横たわっていた身体を寝台に起こし、ほつれた髪を整えながら玄徳は「どうしたのです?」と問いかけてくる。
魏延は玄徳を前にすると、それまで抱いていた彼女を我が物にせんとの想いに揺らぎが現れる。目の前にするとやはり並の女人ではない。神々しく慈愛に満ち清らかで侵しがたい天女のようである。
「あ、あの、丞相もおいでになりませんし、何かお困りごとなどないかと……」
「文長よ。そなたは思いやりがありますね。そのように濡れて。さあ、これで拭いてあげよう」
玄徳は枕元に置いてあった柔らかい布で魏延の濡れた頬を優しく拭く。
「ああ、わ、我が君」
身体中の血が湧き上がり、魏延は己の中心が熱くたぎるのを感じる。
このまま彼女を無理やりにでも奪ってしまおうかと思わず手を伸ばしかけたその時、玄徳の枕元にホウ統士元の名が刻まれた位牌が目に入る。
「あ、そ、それは」
「ああ。これは士元の位牌です。惜しい人を失くしてしまいました。彼の事を忘れぬようそばに置いているのです」
「そうでしたか……」
魏延はすっと冷静さを取り戻し、ホウ統の玄徳を慕っている眼差しと、策を講じている鋭い目つきを思い起こす。彼もどれだけ玄徳を欲していたか魏延にもわかっていた。
新参者である二人はある意味同じように玄徳の寵愛を得んと競っていた。こうして位牌と言えども玄徳と寝所を共にする彼の願いは通じたのであろうか。
魏延は今ここで玄徳を奪えば、己の欲望は満たされても、寵愛を得るどころか軽蔑され二度と心は満たされぬだろうと思い直す。