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ヒロイン三国ファンタジー
第18章 18 北伐
「文長よ。そなたは素晴らしく勇敢ですね。これからの活躍が楽しみです」
「わ、我が君……」

 この夜更けに忍んできた魏延を何ら疑うことなく玄徳はねぎらい、優しい言葉をかける。その姿に魏延は己の身弱で優しかった母親を重ねる。

 魏延の母親は荊州で劉表の配下となり、将軍の地位を得る前に亡くなってしまった。母親は側室であったため、父親の死後たちまち落ちぶれてしまう。
しかし魏延は病みがちな母に楽をさせたいがため、皆が避ける危険性の高い任務を遂行してきた。勿論、命を対価に母親が生活できるように高額な褒賞を求める。
 いつの間にか魏延はその勇敢さと武力を認められのし上がっていく。
一つ地位が上がるたびに母親は青白い細い顔に微笑みを浮かべ、そして自分のせいで彼を危険な目に合わせていると泣いた。

「母上……」
「ん? なにか申しましたか?」

「いえ、我が君。なにも不自由がなければよいのです。では、これで」
「ありがとう。今夜は冷えますからあなたも気を付けるのですよ」

「はっ!」

 魏延は自分の後ろ暗い欲望を心に押し込めて立ち去った。母を犯すことは出来ないと。

 その後、魏延は本来、張飛が任命されるであろうと思われていた漢中太守に抜擢される。その時に彼は過ちを犯さなかったことを心から安堵し、そしてこれから自分も関羽、張飛、趙雲と共に玄徳の信頼を得、いつかきっと義兄弟として契ることが出来ると夢見てきた。
それが夷陵の戦いによる大敗、それに伴った玄徳の死が魏延に暗い影を落とす。
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