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ヒロイン三国ファンタジー
第23章 23 三国を巡って
 店を出て言われるままに北へ向かうと、すぐに人の列にぶつかる。最後尾の老婆に「玄徳様の墓はこの先ですか?」と尋ねると「ああ、このまま並んでいなさい。今日は少ないから10刻ほどで参れよう」とくしゃくしゃの顔を綻ばせた。

「なるほど。ありがとうございます」

 劉備が民に愛され慕われている様子がよくわかった。また待っている間に老婆は色々な話をして聞かせてくれる。劉備の息子であり、尚香もわずかではあるが養育した劉禅は、諸葛亮亡きあとも民の負担になるような税も徴収せず、富国に努め仁成を敷いているようだ。

 しかし老婆はため息をつく。

「でももうこの国も長くはもたないじゃろうなあ」
「なぜですか?」

「孔明さまの後継者だった蒋エン殿が亡くなったし、姜維殿は無理な北伐を進めてばかりじゃ」
「そうなのですか」

「うむ。はあ、あの時、呉にさえ敗れなければ……。元徳様さえ生きておれば。あのお方はわしら一人一人に目を掛けられ、町の中を歩き、わしも何度かねぎらいの言葉をかけてもらったものじゃ」
「……」

 涙ぐむ老婆の話を聞きながら、夷陵の戦いにおいて大火を放ち劉備軍を敗退させたのはわが夫、陸遜なのだと、胸が痛む。

「まあ、仕方ない。ご兄弟を助けるためであるからな。一国の主となられても玄徳さまはご兄弟を捨てることはないのじゃ」

 しみじみと呟くように、噛みしめるように老婆は話す。この劉備の墓に参っている者は皆そうなのであろうか。国が、蜀が滅亡するかもしれぬと思いながらも、劉備の関羽の仇討、諸葛亮の北伐を恨むことはないようだ。

「なんと皆に愛されているお人であろうか」

 劉備から離れて、呉に戻りこうして改めてまた彼女の事を知ると当時見えなかったことや、知り得なかったことがよくわかる。
 涼しい竹林を通りやっと尚香の番になり、墓に参る。こじんまりとした墓は清楚で質素であり劉備その人を表しているかのようだ。
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