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ヒロイン三国ファンタジー
第23章 23 三国を巡って
 再び、蜀の桟道を通り定軍山へ赴く。

「ここは何度通っても慣れぬな」

 下を見ないように慎重に歩み続け、険しい道を抜ける。少しばかり休み、堅牢な自分の身体と健脚に感謝し尚香は歩き続ける。
 まるで巡礼者のように野山を歩き、今までの人生を振り返りながら心静かに故人たちを悼む。
やがて定軍山に到着すると、やはりここでもまばらながらに人がおり、諸葛亮を参っていた。

「ここから魏を睨んでいるのか。孔明は」

 戦場であるため何もなく殺風景ではあるが、尚香にはいづれこの場所がもっと賑わい、諸葛亮を詣でるものが増えるであろうと予想がついた。
小山の前に立ち、諸葛亮を悼む。

「そなたは最後までよくわからない者であったな」

――劉備のもとに嫁いでから趙雲は遠慮しているのか、尚香と劉備の二人が揃っているところにはあまりやって来ず、じっと外で見守っている風であった。
しかし諸葛亮はどんな時でも平気でやって来「奥方、失礼します」と涼し気な風が入り込む様にすっと劉備との間に割って入る。

 劉備もまるで厭わず、むしろこれほど喜ばしいことはないという歓迎ぶりでいつも国と政について話していた。

「我が君。僕はもう少しここを強引に攻めてもよいと思いますが」
「孔明よ。それでは主が気の毒でならぬ」

「うーん。しょうがないですねえ。じゃあ、このような手で行きますかね」

 二人のやり取りは尚香にとってまどろっこしく、煮え切らずイライラさせられることが多かった。話し始めると、まるで尚香の存在がないように夢中になっていることも気に入らなかった。これなら、話の邪魔だと言われた方がましだと、彼女はそっと部屋を出ると二人を見守る守衛のような趙雲が飽きることなく立っている。

「どうも、この者たちとはそりが合わぬ」

 あまりの親しさに劉備と諸葛亮も男女の関係であるかと疑ったが、二人はそれを超えた師弟関係でもあり、主従関係でもあった。まだ恋敵の趙雲の方が尚香にとって理解しやすかった。


 ふうっと過去の荊州でのことを思いだし、ため息をつく。自分と夫の陸遜とはどのような関係であったのであろうかと。劉備と契った者たちの事を思うと尚香は、人智を超えた交わりがあるのであろうかと結論の出せぬまま諸葛亮の墓を後にした。
 そしてその足で尚香は魏に向かう。
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