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ヒロイン三国ファンタジー
第24章 24 魏の末路
 庭には紅梅、白梅が競うように咲き乱れ、甘い香りを放っている。

「炎、そなたはどちらが好きじゃ? 朕は紅梅かのう」
「そうですねえ。私は白梅でしょうか」

「ほう。そなたは紅が良く似合うのに」
「ははっ。己と違うものがすきなのでしょうか」

 仲の良い兄弟のように二人は梅を愛でる。まるで司馬師と司馬昭のようである。

「のう、亡き武帝の梅の話を知っておるか?」
「ああ、『梅林止渇』ですかな。梅を望んで渇きを止むでしたか」

「そうだそうだ。武帝はまことご立派であることよ」
「ええ、陛下のご祖父であられます」

 司馬炎の言葉を聞きながら曹奐は表情を曇らせ、ため息をつく。

「どうされたのですか?」
「ん……。朕はなぜ皇帝なのであろうか」

「……」
「朕は孤独である」

「陛下……」
「じっと玉座に座り、家臣の話を聞き、意見を言おうにも何もわからぬ。今、世の中はどうなっているのであろうか。何も知らない朕が皇帝であることに何の意味があろうか」

 若き皇帝は、自分が何かを望む前に与えられてきたせいで何を望むべきか、為すべきか考えつかないかった。

「なあ、炎。このまま朕はじっと座って生涯を終えるかなあ」
「! 陛下! 私は陛下にお仕えすることを心から望んでおります。どうぞ遊びでもなんでも言いつけてください」

「遊びか……。朕が楽しいと思うのは、そちとこのようにゆるりと外の世界を眺めることじゃ」

 あどけなさと諦めを同居させる、生きる屍のような曹奐を司馬炎は見るのが忍びなかった。
父、司馬昭からの遺言を思い返す。『皇帝陛下に仕えること』それが司馬家の天命である。
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