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ヒロイン三国ファンタジー
第25章 25 蜀の落日
「これだけあれば、どこででもなんとかなるであろう」

 表に出ると、四方八方に魏の軍人がうろついている。なんとかその目を掻い潜り、人気のないところ人気のないところを歩いていると、細く険しい道に出た。

「ここは? 剣閣か」

 ここで激しい戦があったことなど感じさせないほどの、険しく細い剣閣は静かに黄皓を通す。

「ここなら、早々に追ってこれまいて」

 しめしめとほくそ笑み、この陰気な道を早く抜けようと駆けだしたときである。目にきらりと光が入ったかと思うと躓き、倒れ込んだ。右手首がやけに熱いと感じ、見ると手首から先がなくなっていた。

「ひいっ!!」

 大きな岩に何本も剣が刺さり、折れた剣先があちこちに散らばっている。姜維と部下たちが劉禅降伏の話を聞き、剣を折った場所であった。

「こ、これは!」

 そうこうしているうちに、すっぱりと斬れてしまった手首から、血潮がどんどんあふれ、黄皓の目が霞みだす。

「い、いかん!」

 ぼんやりとする頭で、とにかく血を止めようと手首を押さえ、身を隠せる場所を探す。

「あ、あ、そこ、だ」

 ふらふらと岩の窪みに身体をはめ込み、身体を小さくする。

「う、ううっ、さ、寒い」

 身体はガタガタ震え、目の前が霞み始める。

「何か、食わねば」

 懐には宝玉しかなかった。

「う、う、わしは農民であった。宝玉など食えもせぬのに……」

 そう呟きながらも、誰にも渡しはしないと宝玉を目一杯口に詰め、彼は息絶えた。いまでも黄皓は宝玉を体内に残し、岩の間に挟まり続けている。
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