この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
ヒロイン三国ファンタジー
第25章 25 蜀の落日
魏に降伏した次の年、劉禅は成都から洛陽に移され劉備玄徳の出身地でもあり、中山靖王劉勝の子の劉貞からの土地である幽州の安楽県にて安楽公に封じられる。
先日の洛陽の宴の席で劉禅は司馬昭から「蜀を思い出しませぬか?」と尋ねられ「ここはとても楽しく、蜀のことなど忘れてしまいました」と答えた。
忠臣も皇后も嘆き、また尋ねた司馬昭でさえも呆れ、何とも言えぬ表情をしていた。
劉禅は己を恥じ、先帝と相国、先祖に詫びるが、それでも命があることが大事であると思っている。
劉備は戦いに明け暮れ、妻も、子も何度もなくし、そして残ったのがこの最も跡継ぎとしてふさわしくない自分なのだ。
先帝の無念を果たせる器もなく、武力も知力も、また関羽、張飛、趙雲、諸葛亮のような人物に恵まれる人徳もない。
「すみません。朕には何もないのです。命を、先祖の血筋を残すことしかできないのです」
無力な彼は義理の母、孫尚香の教えを思い出す。
――2歳の頃、孫尚香はやってきて何年かしか側に居なかったが、劉禅に色々な知恵を授けてくれた。武芸も習ったが彼には向かなかった。
「孫のかあさま。わたしは戦いが好きではありません」
「阿斗よ。そなたが望まないのは分かるが、玄徳殿の子として生まれた以上、戦は避けては通れぬ」
「……。こわい、こわい。剣とか、弓とかささると痛いでしょう? 血が出るでしょう?」
泣きながら幼い劉禅は孫尚香に訴えかける。
「阿斗よ。もしも、もしもですよ。大人になってもまだ怖くてたまらなくなったら――弱く、何も分からぬ振りをするのです」
「どういうことですか? かあさま」
「早く死ぬものは――強くて、賢いものなのだ」
劉禅は暗くなっていた表情に明るい光が差したような笑顔を見せる。
「わかりました! かあさま!」
そんな彼を孫尚香は慈愛と悲哀の目で見つめ続けた。
先日の洛陽の宴の席で劉禅は司馬昭から「蜀を思い出しませぬか?」と尋ねられ「ここはとても楽しく、蜀のことなど忘れてしまいました」と答えた。
忠臣も皇后も嘆き、また尋ねた司馬昭でさえも呆れ、何とも言えぬ表情をしていた。
劉禅は己を恥じ、先帝と相国、先祖に詫びるが、それでも命があることが大事であると思っている。
劉備は戦いに明け暮れ、妻も、子も何度もなくし、そして残ったのがこの最も跡継ぎとしてふさわしくない自分なのだ。
先帝の無念を果たせる器もなく、武力も知力も、また関羽、張飛、趙雲、諸葛亮のような人物に恵まれる人徳もない。
「すみません。朕には何もないのです。命を、先祖の血筋を残すことしかできないのです」
無力な彼は義理の母、孫尚香の教えを思い出す。
――2歳の頃、孫尚香はやってきて何年かしか側に居なかったが、劉禅に色々な知恵を授けてくれた。武芸も習ったが彼には向かなかった。
「孫のかあさま。わたしは戦いが好きではありません」
「阿斗よ。そなたが望まないのは分かるが、玄徳殿の子として生まれた以上、戦は避けては通れぬ」
「……。こわい、こわい。剣とか、弓とかささると痛いでしょう? 血が出るでしょう?」
泣きながら幼い劉禅は孫尚香に訴えかける。
「阿斗よ。もしも、もしもですよ。大人になってもまだ怖くてたまらなくなったら――弱く、何も分からぬ振りをするのです」
「どういうことですか? かあさま」
「早く死ぬものは――強くて、賢いものなのだ」
劉禅は暗くなっていた表情に明るい光が差したような笑顔を見せる。
「わかりました! かあさま!」
そんな彼を孫尚香は慈愛と悲哀の目で見つめ続けた。