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ヒロイン三国ファンタジー
第26章 26 呉の終焉
 まず身なりを整えようと、陸抗がいるであろう己の屋敷に戻る。

「懐かしい。何も変わっていない」

門の前で一人の見張りが緊張した面持ちで立っている。

「これ、抗はおるか?」
「は、陸将軍ですか? 今、中に……。き、貴様はだれだ!」

「ふふっ、先にそれを聞かぬとな」

青年はぶるぶる震え、槍を尚香の方に向ける。門番になったばかりであろう、緊張のあまり動揺しているようである。

孫権に早く会いたいと思っていた尚香は「中へ通すか、抗を呼べ。わたしは母の孫尚香だ」と、屋敷の中にも聞こえるように怒鳴った。

「え、へ? 母君」
「そうだ」

門番の青年は新参者らしく、尚香の言葉を疑うこともなく、確認することもなく屋敷の中に入ろうとすると、ちょうど息子の陸抗が息を荒げて出てきた。

「母上! お戻りになったのですか! いつ!?」
「今だ。さきほど僧会殿の建初寺に立ち寄った際、兄が伏しておると聞いて急ぎ戻った」

「そうですか。どうぞ、今、湯を用意いたします」
「うん」

親子の再会をじっくり味わうこともなく、尚香は身綺麗にし陸抗を伴い、孫権の元へ赴く。
それでも息子の陸抗がこの8年の間に立派な青年となって、陸遜に似てきた様子に胸が熱くなる。

「そなたは今建業におるのか」
「いえ、柴桑が本来の駐屯地ですが、少し身体を壊してしまい療養しておりました」

「そうか。身体を厭えよ」
「はいっ」

 陸遜に似た彼は我慢強いが身体が堅牢ではなく、おそらく生真面目さ故の過労であろう。母親として心配ではあるがすでに妻も娶り、子もいるようだ。
本来ならば尚香は、陸抗の嫁を教育し、ともに子を育てる姑としての生活を送ったであろうが、できなかった。

「すまぬな、身勝手な母で」
「いえ! 母上。私は母上を尊敬しております。どうぞ母上の思う通りになさってください」

「思う通りか……」

 ぼんやり言葉を噛みしめていると、孫権の屋敷に到着し、陸抗が門番に取り成し、すぐに奥へ通された。
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