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ヒロイン三国ファンタジー
第26章 26 呉の終焉
 その頃、入れ違いになった陸抗が建初寺に訪れる。康僧会に深々と頭を下げ尚香の居所を聞くと、ちょうど帰ったところだと言われた。

「そうですか。久しぶりに駐屯地から戻りましたので早く会いたいと思ったのですが」
「幼節殿は孝行息子ですなあ。尚香様も恵まれたお方で」

「あ、いえ、そんな」

照れ臭く俯き、ふっと斜め上に視線を上げると、視界に一人の女人が目に入った。粗末な身なりで、痩せているが寺院内を必死に掃き清めている。

「あ、あの方は?」
「ん? ああ、李さんかな。ご主人を亡くされ天涯孤独になってしまってな。ここで働いておりますのじゃ」

「天涯孤独……」
「ええ。他所でもっといい働き口があるのじゃが、仏の教えに熱心でな」

今まで女人に関心を寄せたことがなかった陸抗は、なぜだか彼女が気になってしょうがなく、動きをずっと目で追ってしまっていた。すると視線を感じたのか李氏は顔を上げ、陸抗の方を向く。時間が止まったように二人は見つめ合う。

「……」

その二人を邪魔せぬよう、そっと康僧会は静かにその場を立ち去った。

物思いにふける陸抗に尚香は康僧会からきいた女人の事を尋ねる。

「娶ればどうだ」
「えっ? は、母上? いったい」

突然、考えを見透かされたように言われ陸抗は今までにない慌てぶりを発揮し、尚香の笑いを誘う。

「ふふふっ。未亡人ならよいではないか。おまけにその女人ならわたしもよく存じておる。字はなく、読み書きができぬようだが、人柄は良い」
「そのようなことなど、私は気にしません」

「ふふっ。そうか。そなたも忙しい身、話と日取りを決めておいてやろう」
「ええ? い、いきなりっ」

「よいであろう。母親としてあまり何もしてやれなかったのでな」
「は、はあ」

強引かとも思えたが、陸国も抵抗を見せず、嬉しそうにしている。彼に任せていても進むことはないかもしれない。

聞いた話では、時間があれば陸抗は建初寺に赴き、李氏に会いに行っているようで、彼女の方も恥じらいながらも嬉しそうなそぶりを見せると言うことだ。

ちょうど今、三国共に大きな動きはない。孫休が即位して朝廷も落ち着きを見せ始めた。今のうちに陸抗の縁談をまとめてやろうと、尚香はそそくさと康僧会の元を尋ねた。
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