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ヒロイン三国ファンタジー
第26章 26 呉の終焉
 年老いた尚香は手を合わせ祈る。息子の陸抗はそのような弱々しい母を見ることが辛くてたまらなかった。

「母上。私が呉を支えます。ですから、もう……」
「抗……」

 陸抗はまさに亡き陸遜に生き写しのように頼もしく、力強く、そして清らかである。

「そうであるな。そなたたち若者の時代である故、わたしは祈りながらみていよう」

 建初寺にて康僧会と共に祈りをささげる。

「僧会殿。わたしは陛下の育て方を誤ったのであろうか」
「いいえ、いいえ。陸将軍やお孫さんたちはとても立派で清らかです。陛下は……清らかすぎるのかもしれません」

 慈愛に満ち、それでいて悲哀を感じされる康僧会の眼差しは、空を見つめ答えを探しているかのようである。


 尚香は朱士行を見送りながら孫晧と旅した数か月を思い出す。道すがら貧しいものに希望を与え、富めるものに教訓を与えながら朱士行は進む。
 孫晧はそんな彼に尊敬のまなざしを向け、王よりも聖人の方が尊いものであると感じていた。険しい蜀を越え、雍州に入ってから朱士行と別れた。
帰りは二人で馬を飛ばしたので早く帰路についたが、孫晧は建業にあってもしばらく心は旅しているようであった。

「おばあ様。私にとって天命はなんでしょうか」
「さあな。若いころからそれを知るものもあまりおらぬ」

「士行殿と僧会殿と、我々の天命は違うものなのでしょうね」
「そうだな。宗教と政治は交わるときっと、良くなるか悪くなるか極端であろう」

「黄巾党の張角はきっと天命を勘違いしたのでしょう」
「ほう。そのような古いことを良く知っておるな。して、どう勘違いしたと?」

「彼は聖人であることを貫くべきでした。武器を取らずに」
「うむ。そうであるな。武器を取ったがために、聖は俗となり、反逆者となっただけであるな」

「恐らく彼が聖人として死んでいたならば、1000年先までも名を残せたでしょう」

 孫晧の考察に尚香は舌を巻く。周瑜の死後、逸材として名高かった陸遜以降、その二人を超えるものがなかなか出てこなかったが、この孫晧は匹敵するであろう。
 三国鼎立が崩れる前に、孫晧が皇帝でなかったことが悔やまれるばかりであった。
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