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ヒロイン三国ファンタジー
第3章 3 徐州を巡って・1
――黄巾党が各地でのさばっているとき、曹操は都、洛陽を離れ地方で適当な役人をしながらふらついている頃であった。見聞を広めるため荀彧も各地を放浪し、おのが仕える主君を探し求めているところでもあった。

裾の擦り切れた粗末な襤褸をまとった荀彧は初めて見る建造物、人種、小さな文様に到るまで顔を輝かせて事細かに眺めていた。
彼は活気ある商いの様子を見た後、町の市井である酒場に赴く。

ちょうどそこへ男装ではなく普通に女の装いをしていた曹操が通りがかり、見たことのない男だとあとをつけ、同じく酒場に入った。

 曹操は小さな町であればほぼすべての住民を覚えてしまうので、このように少しでも新しい人物を見かけると軽く確認するのであった。

騒めく酒場に入ると荀彧はもうすでに飲んでいる客と打ち解け楽しそうに話をしている。酔っ払いが何か言うたびに「素晴らしいですね。初めて知りました!」などと興味を示し、目を輝かせている。おかげで話しかけている酔っ払いは上機嫌で荀彧におごり、千鳥足で出て行った。

「ほう。面白い若者であるな」

曹操はすっと荀彧のとなりに腰かける。

「この町は初めてか?」
「え? あ、は、はい」

やけに高圧的な女人に荀彧は珍しく緊張し、酒気が吹き飛ぶ。漆黒の髪はどんな闇よりも深く、鋭い目には何の媚びも優しさもない。薄い唇からは刃物が飛び出しそうである。

「名は?」
「荀彧文若と申します」

「ふうん。王佐の才か。お前が」

若かりし頃から荀彧の才覚は有名であり、知る人には知られていた。ただ彼は目の前の女性が曹操であることを知らなかった。
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