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ヒロイン三国ファンタジー
第11章 11 三国鼎立に向かって
 いつからか曹操は夜伽を申し付けることが無くなった。
恐らく孕むことが無くなってからであろう。

 それでも梅の香りが漂う季節と実がなる季節には荀彧が呼ばれていた。
最後に褥に呼ばれたのはいつであったろうか。
消えゆく梅の香りが思い出も消し去っていく。
 最後の一欠けらの香りを胸いっぱいに吸い込んだ時、残り僅かな記憶の中に曹操の言葉を蘇らせた。

『梅は良い。寒さに耐え花を咲かせ、実を結ぶから』

 荀彧は自分の血をひく曹丕が曹操の跡を継ぎ、天子をお助けするのだと理解する。
董卓は長子を廃したが曹操は長子を用いる。その伝言がこの空箱の中の香りなのだ。

「ああ、我が君、曹操様」

恍惚として中身のない箱の底を見続けていると、初めて出会った時の女の姿の曹操が浮かび上がる。
箱の中で彼女は手招く。暗い箱の中の、漆黒の髪と瞳に、炎のような熱さを持つ我が愛人。

『お前はまだ知らぬことがあるのだぞ?』

「あなたは誰でしょう。教えてください。今すぐ参ります故……」

 こと切れた荀彧はしっかりと空箱を胸に抱き、安らかな微笑みを浮かべていた。

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