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ヒロイン三国ファンタジー
第11章 11 三国鼎立に向かって
「その馬車、おとまりください!」
もはやここまでかと孫夫人は馬車を止めさせる。眠っている阿斗をそのままにし、外に出て孫夫人は趙雲に対峙する。
「やはり、追手はそなたになるか」
「孫夫人、お戻りください」
「無理じゃ、母上が危篤なのじゃ。死に目に会えぬ親不孝はしたくない」
「そうですか。しかし、阿斗様はお返し願いましょう」
「阿斗は連れておらぬと言ったら?」
「いいえ。その馬車におられるはずです」
「くっ。さすがは父親であるな……」
「――」
「玄徳様も誰も口には出さぬが、押し黙るときの顔がよう似ておる」
「お返し願おう」
「そうであるな。あたくしも母に会うために帰るのじゃからな」
馬車の中の阿斗をそっと抱き上げ、頬ずりをする。
「んん? もう着いたの?」
「いや、やはり帰ろう」
孫夫人はぎゅっと抱きしめた後、阿斗を趙雲に引き渡す。
「んん? 子龍。おひげ痛い」
「阿斗様」
睦まじい二人の様子に孫夫人は自分と母の姿を重ねた。
「趙雲、そなたは他の将軍と違って功を得ようとはせぬのじゃな。おまけに関羽殿も張飛殿も主君に諭され、妻を持ち跡継ぎを残しておるというのにそなたは……」
「わたしは主君と阿斗様をお守りすることが第一ですから」
孫夫人はまっすぐな槍と白い馬、跪く彼に誠意を見て取る。
しかし玄徳を愛する彼女にとって彼は一番の敵でもある。そこで羨ましいという言葉を飲みこみ最後の憎まれ口をたたくことになる。
「まあ、江東が全土を統一した暁には今度こそ、玄徳様はこちらにおいでになってもらおう」
「――」
「それまで、せいぜい長生きして、お守りしてもらおうか」
「……御意」
ふんっと踵を返し立ち去る孫夫人の後姿を見送りながら、趙雲は長坂坡の戦いで亡くなった糜夫人とのやり取りを思い出した。
もはやここまでかと孫夫人は馬車を止めさせる。眠っている阿斗をそのままにし、外に出て孫夫人は趙雲に対峙する。
「やはり、追手はそなたになるか」
「孫夫人、お戻りください」
「無理じゃ、母上が危篤なのじゃ。死に目に会えぬ親不孝はしたくない」
「そうですか。しかし、阿斗様はお返し願いましょう」
「阿斗は連れておらぬと言ったら?」
「いいえ。その馬車におられるはずです」
「くっ。さすがは父親であるな……」
「――」
「玄徳様も誰も口には出さぬが、押し黙るときの顔がよう似ておる」
「お返し願おう」
「そうであるな。あたくしも母に会うために帰るのじゃからな」
馬車の中の阿斗をそっと抱き上げ、頬ずりをする。
「んん? もう着いたの?」
「いや、やはり帰ろう」
孫夫人はぎゅっと抱きしめた後、阿斗を趙雲に引き渡す。
「んん? 子龍。おひげ痛い」
「阿斗様」
睦まじい二人の様子に孫夫人は自分と母の姿を重ねた。
「趙雲、そなたは他の将軍と違って功を得ようとはせぬのじゃな。おまけに関羽殿も張飛殿も主君に諭され、妻を持ち跡継ぎを残しておるというのにそなたは……」
「わたしは主君と阿斗様をお守りすることが第一ですから」
孫夫人はまっすぐな槍と白い馬、跪く彼に誠意を見て取る。
しかし玄徳を愛する彼女にとって彼は一番の敵でもある。そこで羨ましいという言葉を飲みこみ最後の憎まれ口をたたくことになる。
「まあ、江東が全土を統一した暁には今度こそ、玄徳様はこちらにおいでになってもらおう」
「――」
「それまで、せいぜい長生きして、お守りしてもらおうか」
「……御意」
ふんっと踵を返し立ち去る孫夫人の後姿を見送りながら、趙雲は長坂坡の戦いで亡くなった糜夫人とのやり取りを思い出した。