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シャネルを着た悪魔 Ⅱ
第8章 近寄る魔の手

「ハンソン兄弟、知ってる?」


「──さあ、知らねえな」

表情を一つも動かさず、眉毛も眼球も1ミリも動かさず──まるでサイボーグの様な顔をしてそう言ったイルト。

バックミラー超しで見る他のメンバーも、みんな表情はそのままだった。


「……そう、じゃあ良いけど」

言ってから思う。

もし彼達が──ハンソン兄弟を知ってたら、私はどうしていたんだろう。

もし彼達が──この犯行を知っていたら、私はどんな言葉をかけていただろう。


『何故知ってるの?』

『どうして止めなかったの?』


『貴方たちの資金源は"ハンセン兄弟"の人身売買や覚せい剤製造っていう反道徳的な行動なの?』



「……ヌナ、だからさ」

「知ってる」

窓から見える桜並木は、やっぱり日本の桜並木とはまた違う。

だけど韓国特有のセダンばかりが走るこの広い道に、並び立つ桜と沢山のヘッドライトは独特の感性を持つ。


「──あたしはアンタらのヌナだから。」

「この一か月、死ぬ気でアンタらに尽くしてきたし、知らない間に情も出て本気で可愛いと思ってる。本気で売れてほしいとも思ってる」

「だから……裏切る様な真似はしないで」


「アンタを買ってる私の事も、会長の事も──アンタらが尊敬してて抜かしたいと思えるほどのグループ『Sfire』の事も」

外を見ながらしか、こんな事は言えない。


普段はバカだのアホだの言ってるし、ウザい!とちょっかいをかけてきた子を追い掛け回しているけれど──でも、それでも私自身この子達が可愛くて大事で仕方ないんだ。

それが何でなのかは、分からない。


私がテヒョンに惚れた様に、時間が解決してくれたのかもしれないし……

彼達の行動を見て、人生をかけてくれた所を見て、余計にそんな思いが湧いて出てきたのかもしれないし。

本当の所なんて、自分でも分からないんだ。


だけど──大切だからこそ、裏切る様な真似はしてほしくないと思うばかり。


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