この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
シャネルを着た悪魔 Ⅱ
第8章 近寄る魔の手
「ハンソン兄弟、知ってる?」
「──さあ、知らねえな」
表情を一つも動かさず、眉毛も眼球も1ミリも動かさず──まるでサイボーグの様な顔をしてそう言ったイルト。
バックミラー超しで見る他のメンバーも、みんな表情はそのままだった。
「……そう、じゃあ良いけど」
言ってから思う。
もし彼達が──ハンソン兄弟を知ってたら、私はどうしていたんだろう。
もし彼達が──この犯行を知っていたら、私はどんな言葉をかけていただろう。
『何故知ってるの?』
『どうして止めなかったの?』
『貴方たちの資金源は"ハンセン兄弟"の人身売買や覚せい剤製造っていう反道徳的な行動なの?』
「……ヌナ、だからさ」
「知ってる」
窓から見える桜並木は、やっぱり日本の桜並木とはまた違う。
だけど韓国特有のセダンばかりが走るこの広い道に、並び立つ桜と沢山のヘッドライトは独特の感性を持つ。
「──あたしはアンタらのヌナだから。」
「この一か月、死ぬ気でアンタらに尽くしてきたし、知らない間に情も出て本気で可愛いと思ってる。本気で売れてほしいとも思ってる」
「だから……裏切る様な真似はしないで」
「アンタを買ってる私の事も、会長の事も──アンタらが尊敬してて抜かしたいと思えるほどのグループ『Sfire』の事も」
外を見ながらしか、こんな事は言えない。
普段はバカだのアホだの言ってるし、ウザい!とちょっかいをかけてきた子を追い掛け回しているけれど──でも、それでも私自身この子達が可愛くて大事で仕方ないんだ。
それが何でなのかは、分からない。
私がテヒョンに惚れた様に、時間が解決してくれたのかもしれないし……
彼達の行動を見て、人生をかけてくれた所を見て、余計にそんな思いが湧いて出てきたのかもしれないし。
本当の所なんて、自分でも分からないんだ。
だけど──大切だからこそ、裏切る様な真似はしてほしくないと思うばかり。