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シャネルを着た悪魔 Ⅱ
第8章 近寄る魔の手


「あれ?テヒョンは?」

「奥様への伝言です『今日は警察関係者と飯に行くから帰りが遅くなる』と」

「──そうなんだ、まあそりゃそうか」

帝国が呼んだんだから一日目くらいは接待しないとダメだろう。

送り届けて貰ったのは良いけど、あれ以降誰も口を開こうとしないから、何だか余計にドッと疲れた感じがする。

あれなら一人でタクシーで帰ってた方が良かっただろう。


全てを把握しているソヨンさんは洗ったばかりのジャージとお水を机の上に置いてくれた。こういう人の心情を察せる所はさすが、の一言だ。

「ありがと、着替えるね」

「はい。……私は用務室に居ますので又何かありましたらお呼びください」

「うん、ありがとう」


ソヨンさんがドアを閉めた時、バッグの中で私のスマホが震える。

ソファーに寝転がりながら、目線は天井のまま携帯を持ち──画面を見て、飛び起きた。


水を流し込んでから急いで、スマホをタップする。

───聞こえたのは、前まで一緒に住んでいたアボジの優しい声だった。

「ヨボセヨ、どうしたの!?」

「いやっ……テヒョンから色々と聞いてね。こっちでもニュースになったし、そりゃあテテとアイが心配して大変だったよ」

「ええ、電話なんて来てないけど」

「………。まあそれはいいじゃないか」

本当に、この人はビジネスマンとしては最高のくせに『最高のウソ付き』ではない所が面白い。

シンビさんとの仮面夫婦生活は、あれだけウソで塗り固められてたのにね。

素を出してくれている、と好意的に捉えるべきなのか、どうなのか。
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