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シャネルを着た悪魔 Ⅱ
第9章 見た事のない世界
「すみません、VIPはどうやら満席みたいです」
「どうしますか。……ははっ、さすがにまずいですもんね、いくら羽目外したい気分もあるから何て言っても『旦那さん』無しでクラブに来た事が国民にバレたら」
人ごみの少ないVIP専用のバーカウンターの椅子にとりあえず座らされた私、そして目の前で『あの帝国財閥』が相手だとまるで思ってもなさそうな態度を取り続ける筋肉で出来た様な男。
一歩外に出れば──いや、裏の世界では『帝国財閥』なんていうのは名ばかりなのか?
それとも、この男が始めの私の様に帝国の力を甘く見てるだけなんだろうか。
「さっきから何が言いたいの?」
サービスなんだろう、まるでアイドルの様な顔をした綺麗な男性が言われるがままに私の目の前にマティーニの水割りをおいた。
一丁前にグラスはイギリス製で、あのダイアナ妃もよく使っていたなんて言われてるブランドのロゴが入っている。
こういうクラブはレッテル重視なのをよく知っているけれど、私への態度はこれでグラスはこのブランドか。なんて思うとあまりに陳腐すぎる行動に笑えてさえくる。
「私は、ただ『帝国大ご夫人』であるリサさんの世間からの目や身を案じているだけで御座いますが」
「……」
「そうなの、ごめんね。てっきり私は強請られてるのだと思ったわ。失礼」
「強請る?あなたがここに来た事を口止めする代わりに金をくれって僕が言うと思ったんですか」
「そうしかないでしょ。こんだけ憎たらしく帝国が、何て言われ続けたら余計ね。」
「ははっ、そんな訳ない「チェ・クウ!」
音を掻き消すくらいにドスの効いた叫び声。
突然にして背筋を伸ばし、表情筋を固めた目の前の男はゆっくりと振り返り、確かに聞こえる声でこう言った。
「……ユンサさん」