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シャネルを着た悪魔 Ⅱ
第11章 重要参考人の貴婦人様
「アボジ!」
「どうした?」
「やべえよ、ヌナ完全に血液中にコカイン回っちまってる。見ろ、瞳孔開いて右手に震えが来てるだろ。」
「っ、イルト!おめえ自分の家で作ってる解毒剤飲ましたんじゃねえのか?!」
「アリー、落ち着けって」
大理石の上に落ちている薬はまだ未開封のままだ。
あんな事が有ったから……というよりは、そういうタイミングじゃなかった。その一言に尽きる。
確かに先程よりもクラクラとするのを我慢する様に、一度だけギュッと瞬きをしてからゆっくりと目を開けた。
会うのは二度目になるイルトのお父さんとしっかり目が合う。
パッと見た感じは大企業の代取や重役といった感じだけど、それだけじゃない根性や頭の良さが犇々と伝わってきた。
それが──『普通じゃない紳士』に映る原因なのかもしれない。
「──ッ、イルト。外に車回してもらって今すぐに博愛病院に連れていけ、もう解毒剤じゃ効かないかもしれない」
「アイツらが入れたのは多分、メキシコ産のやつだろう。あんな出来の悪い薬を、ドラッグ初心者にかなりの量入れ込んだら──ヤバイのはお前達五人が一番分かってるはずだ。」
悟りを拓いてる、とも感じれる話し方。
まだ脳みそは多少はしっかりしているのかもしれない。
どこか哀愁染みたイルトのお父さんの最後の文は──、こんなタイミングで、私にFBKがどれだけ悪かったのかをしっかり教えてくれた気がした。
「イルト!何してんだ!早く!」
父親としての大きな声を聞いたFBKのリーダーは、今すぐにでも消えてしまいそうな儚い笑顔を向けてから、私をお姫様抱っこして抱えあげる。
心配そうに各自の荷物を持って立ち上がった他メンバーも、きっと付いて来る気だろう。
みんな、今はこんなに優しくて可愛くて素直なのに。
やっぱりそれなりに悪かった──ということだろう。