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シャネルを着た悪魔 Ⅱ
第7章 記念すべき四月
──撮影が終わったのは20時半だった。
急いで自宅に帰ると、見覚えのあるダイアナのパンプスが玄関に有ることに気付く。
ローヒールで春らしい薄いピンク色。
……そこにダイアナとなれば、こんなもの履いてウチに来る人なんて一人しか居ない。
「──っ、お母さん?!」
勢いよくリビングのドアを開けた私の目に入ったのは、テヒョンと二人で美味しそうに夕食を食べてる私の母だった。
「おかえり」
「……おかえりじゃないやろ、テテとアイは?」
「アボジとクリスタルと一緒に居るけど」
「えっ、テヒョン。これどういうこと?」
バッグをソファーの上に投げ捨ててから、だだっ広い食卓机の上で優雅にブランデーを回している旦那さんに目を向けた。
帰ってきて、そんなに時間が経っていないのかして食事もほどほどしか食べてないし、何よりまだスーツを着てる。
「俺も韓国着いた時に、オンマから連絡有ったんだよ。」
「じゃあ知らなかったってこと?」
「そう。──で、一人でブラブラさせる訳にもいかねえから仕事早めに切り上げて迎えに行って、今。」
決して面倒臭そうな言い方じゃなかった。
テヒョンは……愛子さんを幼い時に亡くしているからこそ、私のお母さんを本当のオンマと思ってくれている。
根本的に、彼が私やお母さんみたいにチャキチャキした性格の女性に弱いっていうのもあるんだろうけど。
愛子さんも堺という大阪バリバリの地域出身だし、第一に母と愛子さんは地元の友達だし。
考え方や話し方、空気感が似ているから懐かしい感じがして居心地が良いのだろう。
「もうっ、来るなら来るって前もって言ってくれれば良かったのに」
「そんなん言うてもアンタが、今みたいな調子でバリキャリ戻ってたら融通なんて効かんやん。」
「……せやけどっ」
きっとテヒョンは、ネイティブな関西弁と戦いながらたどたどしい日本語で相手をしてくれてたのだろう。
私と一緒に居る様になって、もうすっかり日本語を理解して話せてはいるけど……それでも、ここまでの関西弁となれば難しいだろうな、とは思う。