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さらに近くてもっと甘い
第13章 入れ違いに入れ違い
目を見開いた幸太郎は、クッキーを文字通り噛み締める。
香る紅茶の風味。
甘すぎないその味に、しっとりとした食感───…
「おいしいですっ……」
「よかったあ」
少し大袈裟なリアクションだと思いながら、加奈子は微笑む。
そして手に持っているタッパーを見つめた。
要のためにと、いつもより多く焼いたクッキー。
たくさん作ったし、もう少しあげてもいいかな、とそんな事を考えながら、加奈子は再びタッパーを幸太郎に差し出した。
「い、いいんですか……?」
「うん、まだたくさんあるし!」
「ありがとうございます!」
幸太郎の手がタッパーに伸びる。
二人で微笑みあって微睡んでいたその時、突然の人影に加奈子は何の気なしに顔を上げて、ハッと息を飲んだ。
「ふっ、ふふふふ副っ…」
「…………どうも、田部さん」
上がっている息を無理に押し殺しながら、要は他人行儀に加奈子の名前を呼ぶ。
へ?と呑気に声を上げた幸太郎は状況が掴めないまま、加奈子が見つめている方を見るべく振り返った。