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【R-34】
第12章 『不知夜月』
あの時は自分の方が熱を出し、まだ圭吾の部下であった彼女の方が一人暮らしを心配して見舞いに来てくれて……と思いを巡らす。


確か……そうだ。


金曜日に熱で会社を休み、翌日の土曜日に突然の訪問を受けて……。


まだ付き合ってもいなかったから、ぎこちない距離感だった。


そのぎこちなさは、今思い出すと三十過ぎのいい大人がと恥ずかしくて死ねる程の態度ではあった。

職場の若い男たちが狙っている彼女が、今自分の家に居るなんてと信じられなくて布団の中で隠れて自分の頬をつねったのもまた、事実。


ずっと……彼女を強く求めていた。


毎夜、布団の中で何度も彼女を激しく抱く妄想をして吐精しては、彼女に対して後ろめたさが背を押し会社では距離を取る日々。


自分がどれ程求めても、己れのような何の取り柄も無い、しかも年上というには一回りも離れすぎたおっさんに皆の憧れである彼女が恋などする筈がない。


最初から、叶わない恋と誰もが分かりきっている。
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