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溢れる好きと君へのキス
第3章 ***

松野さんは丁寧に手を合わせて食べるなり、うまい!と笑顔で私を見つめる。長い間ずっと言われてこなかったその”うまい“だけで何故か涙がこぼれた。

「なんだよお前、ごめん…何が嫌だった?」
「違くって…うまいなんて久々で…」

箸を置いて急に松野さんが立ち上がる。
そして私の背後に回って座り、ぎゅっと抱きしめた。

「松野さん…?」
「お前今までどんだけ辛い生活してだんだよ、バカ。」
「…バカって…!」
「こんな美味しいメシ食ってうまいの一言も言えないようなやつなんか忘れろよ、記憶から吹っ飛ばしてやれ。お前、辛いのも気づかないくらい必死で…バカ」

ムズムズするくらいあったかい。私を抱くだけで口先だけ「大好きだよ」を繰り返していたあの人からはこんな温度感じられなかった。

「バカ…やめます、私。振り回されてただけでした、やっぱり。ちょっとわかってたけど、いいようにされてるかもって。でももうやめます!」

私を抱きしめていた右手が上に伸びて頭をポンッとされる。

「ちゃんと俺は見てるから大丈夫。頑張ったよ」

そう言って離れた松野さんは元いた場所に座り直してトーストを黙々と食べ始めた。

「あれ、松野さん赤くーーー」
「なってないぞ、せっかくやってやったのになんだそれは。」

「ありがとうございました」

自分が変わった気がして、とにかく嬉しくて、私も松野さんと同じようにトーストをかじった。
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