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溢れる好きと君へのキス
第4章 ****
「待って松野さん早い…っ」
急に止まった松野さんにドンッとぶつかり、そして抱きしめられた。
「えっちょっとまって…」
「ごめん急に手出したりして。でも助けるので精一杯で。これでお前に何かあったら俺が責任とるから。怖かったよな、急に」
ぎゅっと抱かれている手が強くなる。
「…どうしてこんなに私に優しくしてくれるんですか…?」
「…」
「…松野さん?」
「…今日もうち、来いよ。ホテルキャンセルして」
「へっ?」
「来いよ、俺んち」
抱きしめられていた手を解かれる。
「ホテルどことったの?」
「◯◯ホテルです…」
「電話する」
電話が終わるのをずーっと横で眺めていた私は、心の中で絡まる何本もの糸をほどこうとしていた。私は今どんな気持ちなんだろう。
“来いよ”と言われて嫌と言えなかった。嫌なんてちっとも思わなかった。
一昨日の夜まであんなに好きだと思っていた感情は全く消え去って、悲しかった気持ちも昨日の夜にはなくなっていたし、どこが好きだったかも思い出せなかった。
この11ヶ月間はなんだったんだろう。同棲してからの日々はなんだったのか。
昨日と今日の松野さんの姿をみてどうにも説明がつかないこの気持ち。これに名前をつけてしまうのは少し怖い。こんな気持ちすごく久しぶりだ。1年前にあの人に感じた以来。いや、1年前でもこれほどに焦がれるような気持ちだっただろうか。
本当は薄々わかってた。
ずっと惹かれていたんだ。
周りがかっこいいとか好きとか言うから
私は違うって言いたかっただけかも知れない。
好きって思わなくちゃ好きじゃない人と
同じ空間で暮らしてきたけれど
今朝の数時間だけ一緒に食べた朝ご飯
あれだけで私の心は何千倍も満たされていた。
糸が綺麗にほどけた。
私
松野さんが好きだったんだ。