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緑に睡る 〜運命の森〜
第1章 告白
「…紳一郎…」
紳一郎は昔を思い出すように遠い眼をした。
「僕が肺炎で死にかけた時、真っ先に駆けつけてくれたのは、父様でした。熱が下がるまでずっと側についてくれていたのも…。
…母様は…とうとう一度も貌も見にこなかったけれど…」
ふっと笑う紳一郎に、公彦は躊躇しながら口を開いた。

「…あの時…お前がようやく峠を越えた頃、蘭子さんは来たのだよ」
「…え?」
「さすがに私も腹立たしくて蘭子さんを責めた。
貴方は自分のお子が可愛くないのですか?と。
死にかけていても平気なのですか?と…。
すると蘭子さんは、お前の眠っている姿をじっと見て…私にこう言ったのだ。
…自分には母性がない。
可愛いという気持ちも分からない。この子を愛しているのかも分からない…と」
紳一郎は落胆のため息を小さく吐いた。
期待はしていなかったが…やはり、母はそういう冷たい人なのだ…と。

公彦の真剣な眼差しが紳一郎を捉える。
「…けれど…と、彼女は私を見つめてこう言ったのだ」

…私には母性がないけれど、貴方が優しい人だということは分かる。
私にはこの子を守れないけれど、貴方には守る力があることも分かる。
…だから…私の分もこの子を愛して欲しい…。
私には授けられない愛で、この子を守って欲しい…。

「…そう言って、蘭子さんは私に頭を下げたのだ。
…あの人が他人に頭を下げたのを見たのは、後にも先にもあの時の一回きりだ」
公彦は不器用に笑った。

紳一郎もくすりと笑った。
「…やっぱり母様はおかしな人だ…」
笑いながら、自分の頬に生温かい雫が滴り落ちるのに気づき、尚も笑った。
「…やだ…なんで…こんなこと…泣くようなことじゃないのに…」
白い手で、泣き顔を見せないように覆った紳一郎を公彦は思わず抱きしめた。
それはとてもぎこちなく、ぎくしゃくした抱擁だった。公彦の胸に抱かれたのはいつ以来だったろう…と考えていると、不思議なことに母への蟠りがほんの少し溶け出していくのが分かった。
「…私はお前を愛しているよ。…本当の父親ではないけれど、でもお前が可愛い。お前が本当の子どもだったら…と何度も思ったほど、お前が好きだよ」
「…父様…」
十市と再会してから、紳一郎の涙腺はいとも簡単に決壊してしまったようで、それから暫く公彦の腕の中で子どものように泣き続けたのだった。




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