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緑に睡る 〜運命の森〜
第1章 告白

公彦は紳一郎が落ち着くまでずっと優しく背中を撫で続けていた。
ようやく、公彦が手渡した手巾で涙を拭き、笑顔を見せた紳一郎を前に、次の事実を確かめなくてはならない自分に、胸が痛んだ。
「…紳一郎。…こんなことを言うのは酷だが…事実は事実だ。…そこから目を背けて生きて行く訳にはいかない。…十市はお前と腹違いの兄弟だ。…その…兄弟と愛し合うというのは…私はやはり…」
言いにくそうに口籠る生真面目な父親に、紳一郎はふっと柔らかく笑いかけた。
「…父様…」
「お前の気持ちは分かるが、十市との関係は…」
「父様、父様のお優しい気持ちはとても嬉しいです。
でも安心してください。
…十市は僕の父親である森番とは、血が繋がってはいないのです」
「…え?」
「十市は亡くなったスペイン人の母親が最初の結婚をしたギリシャ人との間に出来た子どもだそうです。
だから十市は日本人ではないのです。
森番が自分の子ども同様に育ててくれた…と言っていました。日本名も森番が付けてくれたそうです」
公彦が大きく息を吐く。
「…そうか…。十市は亡くなった妻の連れ子だったのか…」
…そう言われれば、合点が行く。
長く艶やかな緩い巻き毛や日本人離れした堂々たる体躯、そしてなにより日本人離れした彫りの深い目鼻立ち…。神秘的な雰囲気が漂う闇色の深い瞳…。
それらすべては確かに混血でもあり得ない異国情緒に満ちたものだ。
「…ですから僕と十市は他人です。…だから愛し合うことを認めて下さいとは申しません。父様からしたら、息子が森番と…しかも男と愛し合うことなど許す気持ちになれないことは良く分かります。
…いつかは僕達のことを認めていただきたいけれど、それは今じゃない…。分かっています」
「…紳一郎…」
紳一郎は公彦の手を強く握りしめた。
「…十市をまた我が家の森番に雇っていただけませんか?十市は自然の中で…森の中で生き生きと輝く人間です。僕の一生のお願いです。十市を…また森番として働かせて下さい」
その瞳の奥には揺るぎない意志と決意と…そしてまぎれもない十市への熱い愛情があった。
公彦は暫く押し黙っていたが、やがて静かに口を開いた。
「…分かった。…まずは十市に会おう。私も三年前のことを詫びなくてはならないからな…」
紳一郎は大きく目を見開くと、子どものように公彦に抱きついた。
ようやく、公彦が手渡した手巾で涙を拭き、笑顔を見せた紳一郎を前に、次の事実を確かめなくてはならない自分に、胸が痛んだ。
「…紳一郎。…こんなことを言うのは酷だが…事実は事実だ。…そこから目を背けて生きて行く訳にはいかない。…十市はお前と腹違いの兄弟だ。…その…兄弟と愛し合うというのは…私はやはり…」
言いにくそうに口籠る生真面目な父親に、紳一郎はふっと柔らかく笑いかけた。
「…父様…」
「お前の気持ちは分かるが、十市との関係は…」
「父様、父様のお優しい気持ちはとても嬉しいです。
でも安心してください。
…十市は僕の父親である森番とは、血が繋がってはいないのです」
「…え?」
「十市は亡くなったスペイン人の母親が最初の結婚をしたギリシャ人との間に出来た子どもだそうです。
だから十市は日本人ではないのです。
森番が自分の子ども同様に育ててくれた…と言っていました。日本名も森番が付けてくれたそうです」
公彦が大きく息を吐く。
「…そうか…。十市は亡くなった妻の連れ子だったのか…」
…そう言われれば、合点が行く。
長く艶やかな緩い巻き毛や日本人離れした堂々たる体躯、そしてなにより日本人離れした彫りの深い目鼻立ち…。神秘的な雰囲気が漂う闇色の深い瞳…。
それらすべては確かに混血でもあり得ない異国情緒に満ちたものだ。
「…ですから僕と十市は他人です。…だから愛し合うことを認めて下さいとは申しません。父様からしたら、息子が森番と…しかも男と愛し合うことなど許す気持ちになれないことは良く分かります。
…いつかは僕達のことを認めていただきたいけれど、それは今じゃない…。分かっています」
「…紳一郎…」
紳一郎は公彦の手を強く握りしめた。
「…十市をまた我が家の森番に雇っていただけませんか?十市は自然の中で…森の中で生き生きと輝く人間です。僕の一生のお願いです。十市を…また森番として働かせて下さい」
その瞳の奥には揺るぎない意志と決意と…そしてまぎれもない十市への熱い愛情があった。
公彦は暫く押し黙っていたが、やがて静かに口を開いた。
「…分かった。…まずは十市に会おう。私も三年前のことを詫びなくてはならないからな…」
紳一郎は大きく目を見開くと、子どものように公彦に抱きついた。

