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緑に睡る 〜運命の森〜
第1章 告白

紳一郎は大階段を駆け下りる。
玄関ホールには古びた革の外套を着た…しかしどんな安物を着てもその威風堂々とした野生美と威厳に満ちた森の王者のような風格は霞むことはない…十市が佇んでいた。
「十市…!十市…!…逢いたかった!」
紳一郎はそう叫ぶと、十市の逞しい胸に飛び込んだ。
「…紳一郎様。…ただいま着きました」
…安煙草と異国の熟れた果実めいた香り…。
十市が戻ってきた実感に胸が高鳴る。
離れがたくてその筋肉質の胸に貌を埋め、広い背中を抱きしめる。
「…ずっと待っていたよ…十市…」
「…紳一郎様…」
十市の大きな手が紳一郎のほっそりとした身体をそっと抱きしめる。
十市の腕の中から愛しい男の貌を見上げる。
「…これから春まで一緒に過ごせる…」
「はい。紳一郎様…」
彫りの深い濃い葡萄酒色の瞳が、優しく細められる。
「…クリスマスも、お正月も…ずっと一緒だ…」
…この三年は十市がいなくて、色彩を失った日々だった…。
クリスマスもお正月も、十市のことばかり思い出して寂しく辛かった…。
紳一郎の心の内を読んだかのように、十市は紳一郎の瞳を見つめて頷いた。
「…はい。俺はずっと紳一郎様の側にいます…」
「…十市…愛している…」
紳一郎は男のがっしりした首筋に細い腕を絡ませ、引き寄せる。
…くちづけしようとした刹那…。
「…紳一郎様…あの方は…」
十市が大階段の上を見上げる。
振り仰ぎ同じ方向を見ると、公彦と並んで青山がこちらを見下ろしていた。
黒檀の手摺りに腕を寄り掛かるようにして、興味深げな眼差しで二人を眺めていた。
さすがに紳一郎は十市から身体を離し、黙礼した。
「…父様の親友の青山史郎さんだ。普段はパリに住んでいらっしゃるのだけれど今一時帰国中で、暫く我が家に滞在されることになった。
…気さくな方のようだから気にすることはないよ」
説明して微笑む。
十市は律儀に帽子を取り、頭を下げる。
艶やかな緩い巻き毛がはらりと落ちる。
青山も優雅な会釈を返した。
「…ねえ、十市…」
潤んだ瞳で十市を見上げる。
「…早く二人きりになりたい…」
囁くような声に、十市は思わず肩を抱く。
「俺もです。紳一郎様…」
…やがて二人は寄り添いながら、玄関ホールから姿を消した。
玄関ホールには古びた革の外套を着た…しかしどんな安物を着てもその威風堂々とした野生美と威厳に満ちた森の王者のような風格は霞むことはない…十市が佇んでいた。
「十市…!十市…!…逢いたかった!」
紳一郎はそう叫ぶと、十市の逞しい胸に飛び込んだ。
「…紳一郎様。…ただいま着きました」
…安煙草と異国の熟れた果実めいた香り…。
十市が戻ってきた実感に胸が高鳴る。
離れがたくてその筋肉質の胸に貌を埋め、広い背中を抱きしめる。
「…ずっと待っていたよ…十市…」
「…紳一郎様…」
十市の大きな手が紳一郎のほっそりとした身体をそっと抱きしめる。
十市の腕の中から愛しい男の貌を見上げる。
「…これから春まで一緒に過ごせる…」
「はい。紳一郎様…」
彫りの深い濃い葡萄酒色の瞳が、優しく細められる。
「…クリスマスも、お正月も…ずっと一緒だ…」
…この三年は十市がいなくて、色彩を失った日々だった…。
クリスマスもお正月も、十市のことばかり思い出して寂しく辛かった…。
紳一郎の心の内を読んだかのように、十市は紳一郎の瞳を見つめて頷いた。
「…はい。俺はずっと紳一郎様の側にいます…」
「…十市…愛している…」
紳一郎は男のがっしりした首筋に細い腕を絡ませ、引き寄せる。
…くちづけしようとした刹那…。
「…紳一郎様…あの方は…」
十市が大階段の上を見上げる。
振り仰ぎ同じ方向を見ると、公彦と並んで青山がこちらを見下ろしていた。
黒檀の手摺りに腕を寄り掛かるようにして、興味深げな眼差しで二人を眺めていた。
さすがに紳一郎は十市から身体を離し、黙礼した。
「…父様の親友の青山史郎さんだ。普段はパリに住んでいらっしゃるのだけれど今一時帰国中で、暫く我が家に滞在されることになった。
…気さくな方のようだから気にすることはないよ」
説明して微笑む。
十市は律儀に帽子を取り、頭を下げる。
艶やかな緩い巻き毛がはらりと落ちる。
青山も優雅な会釈を返した。
「…ねえ、十市…」
潤んだ瞳で十市を見上げる。
「…早く二人きりになりたい…」
囁くような声に、十市は思わず肩を抱く。
「俺もです。紳一郎様…」
…やがて二人は寄り添いながら、玄関ホールから姿を消した。

