この作品は18歳未満閲覧禁止です

  • テキストサイズ
緑に睡る 〜運命の森〜
第2章 第二の男
青山の黒い切れ長の瞳が紳一郎を捉える。
温かい色の微笑みの中に推し計り難い情熱の色をも感じ取り…紳一郎は眼を伏せる。

「そう警戒しないで。…乾杯…」
子どもの緊張を和らげるような口調で言われ、紳一郎はグラスのシャンパンを一口飲んだ。

…蓄音機からは、聴き覚えのあるドイツ女の愛の唄が密やかに流れてきた。
「マレーネ・Dですね。…お好きなんですか?」
「ああ。大好きだよ。パリでリサイタルが開かれた時には聴きに行ったほどさ」
紳一郎の瞳が輝く。
「そうなんですか。…どうでしたか?綺麗でしたか?」
マレーネは大好きな歌手だ。
レコードも何枚も持っている。
「もう四十も半ばを過ぎているはずだが、とても美しくて官能的だったよ。…まるで芝居をするように唄うんだ。そして聴いている者、一人一人に語りかけるようにね…」
「…へえ…!…いいな…。聴いてみたいな…」
紳一郎は素直に羨ましがる。

ややハスキーな掠れた女の声が、愛の唄を唄う。
…哀しい愛の唄だ。
愛し合っているのに、別れなくてはならない恋人同士の唄…。

…いつか街灯りのそばで会いましょう…。
昔みたいに…。

その愛のフレーズを紳一郎は小さく口ずさむ。
…マレーネも、哀しい恋をしたのかな…。

青山がしなやかな動きで立ち上がったかと思うと、その指先まで綺麗な手を差し出した。
「…踊ってくれないか?…紳一郎くん」
驚いて見上げる紳一郎の手を、優雅な強引さで引き上げる。
「…ちょっ…青山さん…!」
「史郎だよ、紳一郎くん」
人懐こいチャーミングな眼が無邪気に笑う。
紳一郎は抗う気持ちが失せ、仕方なく青山の手を握りしめた。
「…酔っているんですか?」
…そんな風には見えないけれど…。
「…そうだね、酔っているよ。…君の冷たい宝石のような美しさに…」
少しも酔いを感じさせない口調と動作で告げる。
「…キザですね」
青山からわざと眼を逸らせ、顎を上げる。
「好きな子にはキザになってしまうんだ。
…こう見えて本当は照れ屋なんだ」
にこにこと笑いながら答える青山をじろりと睨む。
「…やっぱり酔ってる」
けれど優雅な足運びはさすがだ。
紳一郎も社交界にデビューしてからもう100人近い人と踊ったが、こんなに巧みに…そして洗練された動きでリードして踊る相手は初めてだった。

…十市は別だけど…。
紳一郎はそっと想った。





/77ページ
無料で読める大人のケータイ官能小説とは?
無料で読める大人のケータイ官能小説は、ケータイやスマホ・パソコンから無料で気軽に読むことができるネット小説サイトです。
自分で書いた官能小説や体験談を簡単に公開、連載することができます。しおり機能やメッセージ機能など便利な機能も充実!
お気に入りの作品や作者を探して楽しんだり、自分が小説を公開してたくさんの人に読んでもらおう!

ケータイからアクセスしたい人は下のQRコードをスキャンしてね!!

スマートフォン対応!QRコード


公式Twitterあります

当サイトの公式Twitterもあります!
フォローよろしくお願いします。
>コチラから



TOPTOPへ