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緑に睡る 〜運命の森〜
第2章 第二の男
「…貴方はとても大人で…あんまり言いたくはないですが、とても魅力的で男女問わずおもてになるのは分かります。
…だから僕みたいに無愛想で可愛げがない若者なんて、歯牙にも掛けなくて良いでしょう?」
すると青山がステップを止め、声を上げて笑いだした。
面食らう紳一郎に笑いを堪えながら尋ねる。
「…君、自分のことをそんな風に思ってたの?すごく可笑しいんだけど…」
むっとした紳一郎は青山から腕を離す。
「なんですか?…何が可笑しいんですか?…」
「ごめんごめん。…いや、君は凄く可愛くて魅力的なのにな…て思ってさ」
「…お世辞はいらないです。僕はとっつきにくいと思われているでしょうし…貴方みたいに人気者でもありません」
…分かっている。
人の良さげな仮面を被って接していても自ずと知れてしまうものはある。
紳一郎はおしなべて人望はあるとは思うが、しかしその隠しようのないひんやりとした雰囲気から、学院でも社交界でも遠巻きにされることが多いのだ。
…別に構わない。
十市だけに好かれていれば良いのだから…。

極上の絹のような滑らかな美声が、紳一郎の想いを遮った。
「いや。…君は一見冷たく近寄り難いような美貌の持ち主だけれど、その中には滾るような熱い情熱を秘めているのが分かる。
…そして知れば知るほど、君の秘めた情熱に触れたくなるんだ…」
青山が紳一郎の腕を引き寄せ、その美しい貌の稜線をそっとなぞる。
「…十市くんにしか見せない君の無防備な素顔を、私にも向けて欲しい…そんな欲望が生まれてきたんだ…」
男の手とは思えぬほどにしなやかに美しい指が紳一郎の肌を愛撫するかのように滑ってゆく。
強くはないが有無を言わせぬ力を秘めた男の指が、紳一郎の顎を捉え上向きにされる。
二重の冴え冴えとした黒豹のような瞳に射竦められる。
「…私にも君の素顔を見せてくれ…。誰にも見せない君の素の姿をどうしても見たいのだ…」
魔法のような青山の言葉に、紳一郎はまるで金縛りにあったかのように微動だに出来ない。

青山の極上のシャンパンの甘い吐息が近づき、唇に触れた瞬間、紳一郎は渾身の力を振り絞り、男を突き放した。
唇を噛み締め、男を睨みつける。
「やめてください!貴方に本当の僕を見せる気はないし、見せたいとも思いません!…これ以上僕に近づくなら、父様に話します!」
そう言い捨てると、紳一郎は足早に部屋を出て行った。
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