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緑に睡る 〜運命の森〜
第2章 第二の男
数日後、青山は領地の外れの森番の小屋に向った。
吐く吐息も凍るような空気の中、力強い斧を振る乾いた音が林の奥から響いていた。
…朽ちた小枝を踏みしめ林を抜けると…男はいた。
簡素な木造の作業場には薪が山のように積まれている。
その薪の山を一つ一つ逞しい腕で斧を振るっていた。
185センチの長身の青山よりも更に高い身長はやはり生粋の西洋人ならではだろう。
真冬の今、洗い晒しのシャツ一枚に黒の作業パンツ、ワークブーツというシンプルな服装がどんな煌びやかな正装より似合っている男だ。
長く緩い黒髪を細い革紐で後ろに束ねているのが、斧を振るう度に額に降りかかり、何とも言えぬ男の色気を滲ませていた。
広い肩、分厚く引き締まった胸板、逞しい腰、長く美しい筋肉が推し量られる脚。
…そして何より、その西洋の彫像のように雄々しく美しい容貌…どこか物語性を感じさせる哀愁を帯びた瞳、高く整った鼻筋、やや肉厚な野性味溢れた唇…などは人を思わず惹きつけ、見つめさせてしまうのに充分な魅力に満ちたものだった。
青山は同性愛者だが、自分より逞しく男らしい体躯や容貌の持ち主には食指は動かない。
だがそれを割り引いても、この森番…十市は青山を感動させるのに値する色香を兼ね備えた美しい男だった。
自分を見つめ続ける視線を感じたのか、十市は斧を振るう手を止め、青山を見上げた。
陽の光を受け、アメジスト色に輝く瞳が青山を捉えた。
…美しい瞳だ。
青山は思いがけずに発見した美しい宝石を見るように目を細めながら、手を挙げ十市には近づいた。
「おはよう、十市くん。…まだきちんと挨拶をしていなかったと思ってね、青山史郎だ。美術商をしている。よろしく」
握手を求める青山に一瞬戸惑いながら、手袋を外すと握手に応じた。
「…よろしくお願いします」
青山は驕慢ではないつもりだが、自分のような身分の男の前に立つ使用人は皆慌てふためき、おどおどと恐縮する態度を取るものだ。
中には卑屈に愛想笑いを振りまく者もいる。
…しかし十市は全く態度を変えず…かといって虚勢を張るわけでも牽制するわけでもなく、ただあるがままに泰然と青山を見つめ返していた。
青山の方がどこか落ち着かないような自分に僅かばかり自信がないような気持ちにさえなり、…そのような感情を持たせたこの森番に改めて一目置かざるを得なかったのだ。
吐く吐息も凍るような空気の中、力強い斧を振る乾いた音が林の奥から響いていた。
…朽ちた小枝を踏みしめ林を抜けると…男はいた。
簡素な木造の作業場には薪が山のように積まれている。
その薪の山を一つ一つ逞しい腕で斧を振るっていた。
185センチの長身の青山よりも更に高い身長はやはり生粋の西洋人ならではだろう。
真冬の今、洗い晒しのシャツ一枚に黒の作業パンツ、ワークブーツというシンプルな服装がどんな煌びやかな正装より似合っている男だ。
長く緩い黒髪を細い革紐で後ろに束ねているのが、斧を振るう度に額に降りかかり、何とも言えぬ男の色気を滲ませていた。
広い肩、分厚く引き締まった胸板、逞しい腰、長く美しい筋肉が推し量られる脚。
…そして何より、その西洋の彫像のように雄々しく美しい容貌…どこか物語性を感じさせる哀愁を帯びた瞳、高く整った鼻筋、やや肉厚な野性味溢れた唇…などは人を思わず惹きつけ、見つめさせてしまうのに充分な魅力に満ちたものだった。
青山は同性愛者だが、自分より逞しく男らしい体躯や容貌の持ち主には食指は動かない。
だがそれを割り引いても、この森番…十市は青山を感動させるのに値する色香を兼ね備えた美しい男だった。
自分を見つめ続ける視線を感じたのか、十市は斧を振るう手を止め、青山を見上げた。
陽の光を受け、アメジスト色に輝く瞳が青山を捉えた。
…美しい瞳だ。
青山は思いがけずに発見した美しい宝石を見るように目を細めながら、手を挙げ十市には近づいた。
「おはよう、十市くん。…まだきちんと挨拶をしていなかったと思ってね、青山史郎だ。美術商をしている。よろしく」
握手を求める青山に一瞬戸惑いながら、手袋を外すと握手に応じた。
「…よろしくお願いします」
青山は驕慢ではないつもりだが、自分のような身分の男の前に立つ使用人は皆慌てふためき、おどおどと恐縮する態度を取るものだ。
中には卑屈に愛想笑いを振りまく者もいる。
…しかし十市は全く態度を変えず…かといって虚勢を張るわけでも牽制するわけでもなく、ただあるがままに泰然と青山を見つめ返していた。
青山の方がどこか落ち着かないような自分に僅かばかり自信がないような気持ちにさえなり、…そのような感情を持たせたこの森番に改めて一目置かざるを得なかったのだ。