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緑に睡る 〜運命の森〜
第2章 第二の男
青山は人好きのする笑みを浮かべながら、ジャケットの胸ポケットからシガレットケースを取り出し、唇に咥えると一本を十市に勧めた。
「君も吸わないか?」
「いいえ。結構です」
武骨だが控えめな態度に青山は好感を持つ。
磨き上げられた黒い革靴の踵で器用に燐寸を擦り、煙草に火を点ける。
深く吸い込みながら、木の柵に背中を預けた。
「君はいつから鷹司の家で働いているの?」
どうやらこの主人の客人は自分と話に来たらしいと察知した森番は斧を切り株に置き、高い背丈を持て余すように佇みながら言葉少なに答えた。
「…物心ついた時にはここにいました。…正式に働き出したのは、15の年からです」
青山は興味深げに尚も尋ねた。
「お父上が解雇されてから、跡を継いだのだね?」
「…はい」
「学校は?」
「行っていません」
「行かせてもらえなかった?」
「いいえ。…俺の見た目を揶揄うやつがいて…。鬱陶しくなって通うのを止めたんです」
「なるほどね…」
青山は改めて目の前の十市を、さながら突然手に入った希少な美術品のように見つめた。
…陽の光を浴びて、複雑な色に輝くアメジストの瞳…
まるでアレキサンドライトだ。
「君は生粋の日本人ではないのだね」
十市は肩にかけた手拭いで額の汗を拭いながら愛想なく…しかし誠実に答えた。
「はい。…俺の母親はスペイン人で亡くなった実の父親はギリシア人でした」
青山は眼を細める。
「ああ。…だからそんなに美しくエキゾチックな貌立ちをしているのだね。ラテン系ヨーロッパ人の混血は世界で一番美しい容姿をしているからね。
私は幼少期から欧州で暮らしているが、美しい青年は全てラテン系ヨーロッパ人だったよ。…かつての恋人もね」
最後にさり気なく色めいた言葉を投げかけたが、十市は驚いた様子もなく、ただ青山を見つめ返していた。
「…で、紳一郎くんとは彼が生まれた時から知っている訳だ」
「…はい」
「…鷹司に聞いたが、紳一郎くんの本当の父親は君の父上だそうだね。…君とは血は繋がらないにせよ、兄弟のようなものだ」
十市の野性味溢れる貌に初めて警戒めいた色が走る。
「…兄と愛しあったと思い込んだ紳一郎くんは悩んだことだろうな…。あの氷のような冷たい美貌の下で…」
青山は人好きのする眼差しはそのままで…しかしどこか巧妙なゲームを仕掛けるような企みの色の微笑みを浮かべた。
「君も吸わないか?」
「いいえ。結構です」
武骨だが控えめな態度に青山は好感を持つ。
磨き上げられた黒い革靴の踵で器用に燐寸を擦り、煙草に火を点ける。
深く吸い込みながら、木の柵に背中を預けた。
「君はいつから鷹司の家で働いているの?」
どうやらこの主人の客人は自分と話に来たらしいと察知した森番は斧を切り株に置き、高い背丈を持て余すように佇みながら言葉少なに答えた。
「…物心ついた時にはここにいました。…正式に働き出したのは、15の年からです」
青山は興味深げに尚も尋ねた。
「お父上が解雇されてから、跡を継いだのだね?」
「…はい」
「学校は?」
「行っていません」
「行かせてもらえなかった?」
「いいえ。…俺の見た目を揶揄うやつがいて…。鬱陶しくなって通うのを止めたんです」
「なるほどね…」
青山は改めて目の前の十市を、さながら突然手に入った希少な美術品のように見つめた。
…陽の光を浴びて、複雑な色に輝くアメジストの瞳…
まるでアレキサンドライトだ。
「君は生粋の日本人ではないのだね」
十市は肩にかけた手拭いで額の汗を拭いながら愛想なく…しかし誠実に答えた。
「はい。…俺の母親はスペイン人で亡くなった実の父親はギリシア人でした」
青山は眼を細める。
「ああ。…だからそんなに美しくエキゾチックな貌立ちをしているのだね。ラテン系ヨーロッパ人の混血は世界で一番美しい容姿をしているからね。
私は幼少期から欧州で暮らしているが、美しい青年は全てラテン系ヨーロッパ人だったよ。…かつての恋人もね」
最後にさり気なく色めいた言葉を投げかけたが、十市は驚いた様子もなく、ただ青山を見つめ返していた。
「…で、紳一郎くんとは彼が生まれた時から知っている訳だ」
「…はい」
「…鷹司に聞いたが、紳一郎くんの本当の父親は君の父上だそうだね。…君とは血は繋がらないにせよ、兄弟のようなものだ」
十市の野性味溢れる貌に初めて警戒めいた色が走る。
「…兄と愛しあったと思い込んだ紳一郎くんは悩んだことだろうな…。あの氷のような冷たい美貌の下で…」
青山は人好きのする眼差しはそのままで…しかしどこか巧妙なゲームを仕掛けるような企みの色の微笑みを浮かべた。