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緑に睡る 〜運命の森〜
第2章 第二の男
「…初恋の森番と上手くいったら僕などもう用無しか。
…本当につれない奴だな、君は」
そう堪えた風もなく、伊勢谷は紳一郎の白い頬を抓る。
「だが上手くいっている割に機嫌が悪いのはなぜだ?」
鬱陶しそうにその手を払う。
「煩いな。放っておいてくれ…」
伊勢谷を躱し、新しいシャンパンを飲み干す。
…苛々する原因はわかっている。
青山史郎だ。
とんでもない発言を十市にした日を境に、彼は屋敷をずっと留守にしているのだ。
執事に尋ねると
「なんでも神戸で商談がお有りとのことで、暫くはお帰りにならないそうでございます」
との返事が返ってきた。
紳一郎は溜息を吐いた。
…早く発言の真意を質したいのに!
苛々と爪を噛んでいると、ふとどこかで嗅いだことがある舶来のトワレの薫りが漂ってきた。
…そして驚くほど近くから聞こえる絹のように滑らかな低音の声…。
「…爪を噛むのは君の悪い癖だな。…綺麗な指が台無しになるよ」
振り返る先には…青山のあの余裕に満ち溢れた明るい笑顔と美しい彫像のような姿があった。
「青山さん!」
「史郎だよ、紳一郎くん。久しぶりだね。…会えなくて寂しかったよ」
西洋式に抱擁し、頬に軽くキスされるのを強張った表情で受け止める。
そんな紳一郎を青山は可笑しそうに見つめる。
「…お見えになっていたんですね」
木で鼻をくくるような愛想もない言葉に少しも頓着せず、青山は紳一郎の肩を抱いた。
「ああ。伊勢谷さんは絵画の取引で何かとお世話になっていてね…」
伊勢谷が大人びた所作で握手を求めた。
「…ようこそいらっしゃいました。伊勢谷夏彦です」
青山は如才なく笑い、手を握り返した。
「やあ、初めまして…かな。伊勢谷さんにこんなに大きな立派な息子さんがいらしたとはね」
そして紳一郎を見て
「君のお友達?」
朗らかに尋ねる。
「紳一郎、紹介してくれよ」
肘で突かれ、紳一郎は渋々と青山に伊勢谷を紹介する。
「僕の級友です」
「…素っ気ないなあ…。親友です。紳一郎とは中等部からずっと一緒なんです」
「ほう。…学校での紳一郎くんはどんな風なのかな?」
「とても優秀で品行方正で人望があって…なんて言っても詰まらないですよね。
…この虫も殺さぬ綺麗な貌で沢山の上級生や下級生を虜にする魔女みたいな奴ですよ」
紳一郎は伊勢谷を睨みつけた。
青山が愉快そうに声を上げて笑った。
…本当につれない奴だな、君は」
そう堪えた風もなく、伊勢谷は紳一郎の白い頬を抓る。
「だが上手くいっている割に機嫌が悪いのはなぜだ?」
鬱陶しそうにその手を払う。
「煩いな。放っておいてくれ…」
伊勢谷を躱し、新しいシャンパンを飲み干す。
…苛々する原因はわかっている。
青山史郎だ。
とんでもない発言を十市にした日を境に、彼は屋敷をずっと留守にしているのだ。
執事に尋ねると
「なんでも神戸で商談がお有りとのことで、暫くはお帰りにならないそうでございます」
との返事が返ってきた。
紳一郎は溜息を吐いた。
…早く発言の真意を質したいのに!
苛々と爪を噛んでいると、ふとどこかで嗅いだことがある舶来のトワレの薫りが漂ってきた。
…そして驚くほど近くから聞こえる絹のように滑らかな低音の声…。
「…爪を噛むのは君の悪い癖だな。…綺麗な指が台無しになるよ」
振り返る先には…青山のあの余裕に満ち溢れた明るい笑顔と美しい彫像のような姿があった。
「青山さん!」
「史郎だよ、紳一郎くん。久しぶりだね。…会えなくて寂しかったよ」
西洋式に抱擁し、頬に軽くキスされるのを強張った表情で受け止める。
そんな紳一郎を青山は可笑しそうに見つめる。
「…お見えになっていたんですね」
木で鼻をくくるような愛想もない言葉に少しも頓着せず、青山は紳一郎の肩を抱いた。
「ああ。伊勢谷さんは絵画の取引で何かとお世話になっていてね…」
伊勢谷が大人びた所作で握手を求めた。
「…ようこそいらっしゃいました。伊勢谷夏彦です」
青山は如才なく笑い、手を握り返した。
「やあ、初めまして…かな。伊勢谷さんにこんなに大きな立派な息子さんがいらしたとはね」
そして紳一郎を見て
「君のお友達?」
朗らかに尋ねる。
「紳一郎、紹介してくれよ」
肘で突かれ、紳一郎は渋々と青山に伊勢谷を紹介する。
「僕の級友です」
「…素っ気ないなあ…。親友です。紳一郎とは中等部からずっと一緒なんです」
「ほう。…学校での紳一郎くんはどんな風なのかな?」
「とても優秀で品行方正で人望があって…なんて言っても詰まらないですよね。
…この虫も殺さぬ綺麗な貌で沢山の上級生や下級生を虜にする魔女みたいな奴ですよ」
紳一郎は伊勢谷を睨みつけた。
青山が愉快そうに声を上げて笑った。