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緑に睡る 〜運命の森〜
第2章 第二の男
「そんなこと思ってやしないよ。…と言うか、私は蘭子さんが好きだよ。…勿論私はゲイだから性的な意味合いではなく…だがね。
私は自分の欲望に忠実に生きる人が好きだ。男女問わず…ね。つまらない世間体や外聞を気にして己を偽るなど愚の骨頂だ」
紳一郎はグラスを煽り鼻先で笑った。
「自分の母親があのような女でも同じことが言えますか?貴方の発言は高みの見物ですよ。不愉快です。
…僕はよく他の友達の母親のようなひとが自分の母だったら良かったのにと思いましたよ。
慈善事業に精を出し、時々品の良いお友達のお家でお茶会に呼ばれ、しかし大抵の午後は居間でモーツァルトを聴きながらスウェーデン刺繍をする…。子どもの教育には熱心で成績が下がると他愛のないお小言を言う…。
けれど週末には必ずご自慢のタルトタタンを焼くんです。それが子どもたちへのご褒美だから…。
驚くほどに平凡だけれど涙が出るほどに羨ましい母親像です。よく友人が母親の愚痴を溢すのを僕はにこにこ笑いながらも心の中で毒付いていました。
…そんなに嫌なら僕の母様と交換してくれ…てね」
一気に心情を吐露すると、グラスを乾した。
偽悪的な微笑みを浮かべ青山に流し目をくれる。
「史郎さんのお母様は?どんな方ですか?…ああ、青山家は名門ですからね。社交にお忙しくてタルトタタンを焼くお暇はないかも知れませんね」
青山は、新しいブランデーを紳一郎のグラスに少しだけ注いでやりながら柔らかな口調で話し始めた。
「…母親か…。実の母親は私を生むと直ぐに亡くなったので残念ながら記憶はないな」
紳一郎ははっと息を呑んだ。
青山は椅子に深く背中を預けると、懐かしい想い出を紐解くように口を開いた。
「…私の母は吉原の芸者でね。私は継母…つまり父親の本妻に育てられたのだよ」
「…え…?」
紳一郎は切れ長の瞳を見開いた。
「…少し長くなるがいいか?」
思いやり深く尋ねる青山に、紳一郎は素直に頷いた。
「…ええ。もちろん…」
私は自分の欲望に忠実に生きる人が好きだ。男女問わず…ね。つまらない世間体や外聞を気にして己を偽るなど愚の骨頂だ」
紳一郎はグラスを煽り鼻先で笑った。
「自分の母親があのような女でも同じことが言えますか?貴方の発言は高みの見物ですよ。不愉快です。
…僕はよく他の友達の母親のようなひとが自分の母だったら良かったのにと思いましたよ。
慈善事業に精を出し、時々品の良いお友達のお家でお茶会に呼ばれ、しかし大抵の午後は居間でモーツァルトを聴きながらスウェーデン刺繍をする…。子どもの教育には熱心で成績が下がると他愛のないお小言を言う…。
けれど週末には必ずご自慢のタルトタタンを焼くんです。それが子どもたちへのご褒美だから…。
驚くほどに平凡だけれど涙が出るほどに羨ましい母親像です。よく友人が母親の愚痴を溢すのを僕はにこにこ笑いながらも心の中で毒付いていました。
…そんなに嫌なら僕の母様と交換してくれ…てね」
一気に心情を吐露すると、グラスを乾した。
偽悪的な微笑みを浮かべ青山に流し目をくれる。
「史郎さんのお母様は?どんな方ですか?…ああ、青山家は名門ですからね。社交にお忙しくてタルトタタンを焼くお暇はないかも知れませんね」
青山は、新しいブランデーを紳一郎のグラスに少しだけ注いでやりながら柔らかな口調で話し始めた。
「…母親か…。実の母親は私を生むと直ぐに亡くなったので残念ながら記憶はないな」
紳一郎ははっと息を呑んだ。
青山は椅子に深く背中を預けると、懐かしい想い出を紐解くように口を開いた。
「…私の母は吉原の芸者でね。私は継母…つまり父親の本妻に育てられたのだよ」
「…え…?」
紳一郎は切れ長の瞳を見開いた。
「…少し長くなるがいいか?」
思いやり深く尋ねる青山に、紳一郎は素直に頷いた。
「…ええ。もちろん…」